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もし芸人に不思議な力があったら4

1 :名無しさん:2006/01/19(木) 20:41:46
現まとめサイト
ttp://geininstone.nobody.jp/


・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってま


・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。

278 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:45:35
>>204-211 の続き

【21:41 都内・某TV局(美術倉庫)】

「『白い悪意』の弱点……。」
土田の口をついた言葉は、小沢の予想だにしない物だった。
主の意識の揺れを反映して、警戒を続けていたアパタイトの輝きも一瞬弱まる。
「で、でも…それを見つけ出してどうするつもりなんですか。『白い悪意』を『黒』の支配下に置くつもりですか?」
しかしその輝きはすぐさま回復し、小沢は眉を寄せて土田へと問いかけた。
いくらか挑発的な響きを含んだ小沢のその問いに対し、土田は表情一つ変えずに、答える。
「…破壊する。完膚無きまでに。」
「………!」
「『白い悪意』の持つ石…いや、『白い悪意』そのものであるあの元凶を。」
椅子に座ったまま、上半身をわずかに前に倒して。土田はきっぱりとそう言い切って見せた。
「もちろんこれは『黒』全体の意向じゃねぇ。あの野郎に借りのある、俺個人の考えだ。
 もっとも…そんな事言っても信じちゃもらえない事ぐらいは、わかっちゃいるけどな。」
そうだよな、と確認するように川元に問えば、川元は「……その通りです」と土田にぶっきらぼうに答える。
確かにそのやりとりだけで土田の言葉を、そして提案を信じられるかと言えばそうではない。
けれど、小沢の表情、そしてアパタイトの輝きは先ほどよりも穏やかな物へと変わっていた。

――ったくよ、まどろっこしい事するな、お前もよ。
その一方で土田の耳だけに不意に響く、声。
声の発生源は彼の指で輝く漆黒の宝石、ブラックオパール。
――ちょっと言ってくれればさ、俺があの石ごとあいつの心を黒く染めてやるってのに。
「…それじゃ、意味がないんだ。」
一般的な力を持つ石に比べれば自我が強く、相性も良いためか、通常の状態で主との会話まで叶うブラックオパールの
いかにも面白くないとでも言いたげなぼやきに、土田は小さく囁き返す。
――あんたがどんだけホワイトファントムを憎んでいるか、一番知ってるのは俺なんだぜ?
「それでも、だ。」
余り長い間ブラックオパールと会話をしていると、小沢や川元が怪しく思うだろう。
それの説明で更に時間を割くのは面倒くさい。故に、土田は手で石の填ったリングを覆うように押さえつけた。

279 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:46:16
チッ、と舌打ちをするようなノイズが聞こえたような気もするが、気にせずに土田は改めて小沢の方を見る。
「で、どうよ。乗るか? 降りるか?」
「……乗る、事にします。」
問いかけた土田の言葉に、数秒ほど考えるような素振りを見せ、それから小沢はそう答えた。
少なくともこの男は、土田はさっき『白い悪意』の石の名を口にしたように、自分達よりも『白い悪意』についての知識がある。
単純に情報不足という理由もあるだろうが、相手の弱点を看破する能力を秘めた石を持つ有田が幾度試しても
思うように結果を導き出せなかった『白い悪意』への対策方法を、彼の手を借りれば見つけ出すことも可能かも知れない。
そして。
今の土田からは『黒』独特の後ろ暗い気配が感じられないように小沢には思えたから。
そんな彼の言葉なら、信じられるかも知れない。そうした判断が、小沢の背中を押していた。

「ありがとう。」
小沢の返事に礼の言葉を口にし、土田は椅子から立ち上がる。妙に素直なその態度に、逆に小沢は少し戸惑うけれど。
「それじゃ余り長話してるとお互いややこしい事になるからな。ここからは手早く行くぞ。」
「…はい。」
1歩2歩と歩み寄ってきつつ、いつもの…小沢の知る彼らしい口振りで笑ってみせる土田に、
相手が自分達『白』と敵対する『黒』の人間である事など構わず、小沢は完全に警戒心を解いて彼からも足を進めていた。







280 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:47:18
【22:38 都内・居酒屋】

「……さん。……さん?」
「…………。」
「おざぁーさん?」
「…あ、あぁ。」
何度目になるだろう。真正面からの呼びかけに、ようやく小沢は気のない言葉で反応した。
「ったく、大丈夫か? さっきからボーっとしっ放しで。」
眉を寄せてそう告げるのは、テーブル越しに身を乗り出してくる井戸田。その手にはビールの入ったジョッキが握られている。
「ん、何でもない。」
へらりと笑って小沢はそう答え、更に山盛りにされた枝豆に手を伸ばした。
思考から現実に引き戻された途端に小沢の目に飛び込んでくるのは、小洒落た飲み屋の風景。
耳に飛び込んでくるのは、若者達のはしゃぐ声。所々呂律が回っていないように思えるのは、早くも酒が回ってきたからか。
「だったら良いんだけどさ。」
小沢の答えに小さく肩を竦め、井戸田は席に座り直すとジョッキに口を付ける。

小沢と川元が土田の元に引き寄せられていた頃、彼らが行方不明になっていた事を回りに伏せるため
墓地では肝試しにしては異例の『2周目』が行われていた。
人を驚かすポイントがばれている上での2周目は、芸人のサガも手伝って本来の肝試しの意図と大いに異なる
笑わせあいになっていたとかいなかったとか。
そんな墓地での肝試しは小沢達が発見された事で終わりとなり、島田の浄化の光によってお払いをした後は
参加者に店長の知り合いが居た関係で、とある居酒屋を丸々貸し切りにしての打ち上げに移っていた。
他の客に気兼ねする事なくはしゃげるのは元気盛りの若若手達にはちょうど良いようで。
元々注文していたコース料理に加え、ひっきりなくテーブルに運ばれてくる、自他とも認める料理好きの磯山と
料理人としてのスキルを石の力で入手した野村による特製料理の数々に舌鼓を打ちながら
アルコールが飲める者はビールやサワー、飲めない者はノンアルコールのジュースをぐいぐいと流し込んでいる。
「うーっし、お待たせ!」
「おぉー、待ってました!」
厨房から料理が盛られた大皿を両手で抱えながら磯山が姿を現すと、また今仁辺りを筆頭に野太い歓声が上がった。
その響きに、日村がのそりと席から立ち上がろうとする。

281 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:49:11
「やっぱり俺も鍋作るわー。」
一回石を使う毎に一度作った鍋が美味しくなるという、不思議な副作用を持つスモーキークォーツの持ち主である日村としては
折角のこの機会に己の鍋を振る舞ってみたいと思うのも当然の流れかも知れないが。
如何せん今の時期は鍋のシーズンの真逆である夏。たとえ確実に美味しいとわかっていても遠慮しておきたいし
この一部アルコール入りまくりの状況では、下手すれば具材を顔に当てたり背中に放り込まれたりという
画家でもある某大御所芸人に熱いおでんを振る舞う「お約束」のような大惨事になりかねない。

そのため。
「及川、ズドン、日村さんを止めろ!」
何度目になるかわからない日村のその宣言に対して鋭い声が井戸田から上がり、それに素早く反応した2人の小柄な若者が
日村を席に押さえつけようとした。
今まではそれで日村も落ち着いていたのだけれどさすがに今回はそれでは収まらず、日村は輝きを帯び始めた石を手に握りしめる。
「…えっ…ちょ…日村さんっ!」
「あどでー、ぼぐでー、パパみだいだ力士に……」
既に一日一度が限度である力士化の能力を使用しているにも関わらず、再びキーワードを口にしようとする日村。
しかしその口はキーワードを唱え終わる前に強張り、言葉はプツンと途切れた。
「…………。」
何か変な線が切れたのでは、と逆に心配になるぐらい唐突に訪れた日村の沈黙により不意に静寂が辺りを包む中、
ごくり、と喉が上下する音があがる。
その発生源は日村達の隣のテーブルの隅でウーロン茶のグラスを傾ける赤岡。
日村をじっと見据える彼の首元で、黒珊瑚が淡く暗い輝きを放っていた。
「お…サンキュ。」
金縛りという強引な手ではあるが、日村の暴走を押さえ込んだ赤岡に苦笑いを浮かべて井戸田が目線と短い礼の言葉を送れば
ふ、と赤岡の口元にも笑みが浮かぶ。

282 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:50:30
「まったく、しょうがないな。」
再び辺りに騒々しい声が戻っていく中で、こちらもすっかり呆れ果てた、しかしその中にも相方を微笑ましげに
温かく見守ろうとする笑顔を浮かべながら、小沢の方へと歩み寄ってきた設楽が彼の隣の椅子に腰掛け、小沢に囁いた。
「…貸し切りだから出来る事ですよね、これ。」
まさか他の客が居る前で、現実離れした能力を秘めた石を使うなんて真似は出来ない。
小沢が呟いたように、目の前で繰り広げられる騒ぎはここにいるのがほぼ芸人だけという条件があるからだろう。
「こういうのを見ていると…本来石って言うのはこういう感じで使われるべき物なんじゃないかって思いますよ。」
「かも、知れないな。」
戦うためではなく、楽しむために。小沢の言葉に設楽はうんうんと頷いて、短く答える。
「楽しいって事を知らないと…人を楽しませる事は難しいからな。」
その答えに、小沢は一度瞬きをし、それから設楽の方を凝視した。
「…どうした?」
「いえ、別に……。」
まさか己の言葉にこうも同意されるとは思わず、明らかに驚いた仕草を見せる小沢に設楽が問いかければ
小沢は首を横に振る。
そのままグラスへと視線を落とす小沢に、設楽は言葉を紡いだ。
「本当に今夜は良い物を見られた。『黒』も『白』も敵対しないって言うのも結構悪くないな。」
「…なら、設楽さんが『黒』を抑え込んでください。『黒』がなければ『白』も戦わなくてすみますから。」
わずかに口を尖らせる小沢に、設楽は浮かべた笑みを苦笑いに変える。
「『白』とその周りの連中がみんな抵抗をやめて『黒』に加われば戦う事もなくなるさ。」
「そもそも『黒』が馬鹿な事しなければ、抵抗もしませんよ。」
「みんな『黒』の方針に従ってくれりゃ、馬鹿な事もしなくてすむさ。」
「……………。」
テーブルの上のグラスを見据える小沢とその横顔を見やる設楽。
それぞれの立場からボソボソと交わされる言葉は接点を見つける事も出来ず。

「…平行線、かな。」
「……ですね。」
これからの事を思えば簡単に引き下がってはならないのだろうけれど、どちらともなく諦めるように言葉が漏れれば
2人は同時に肩を竦める。

283 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:51:44
「…近い内にこういう光景が日常な物になると良いですね。」
「……………。」
最後に付け加えるように小沢が口にした言葉に、設楽は答えなかった。
それが意図された物なのかどうか、小沢には知る術はない。
ちょうど小沢が言葉を言い終えたその瞬間、井戸田の携帯がけたたましい音を奏でだし、店中にいた芸人達の中で
深く酔っぱらっている者、そして酔いや疲れから早くも眠りに落ちている者以外の面々が一斉に井戸田の方を凝視したのだから。

「ったく、何だよこんな時によぉ……。」
折角の盛り上がりに水を差すかのような着信に愚痴りながら、手早く井戸田が取りだした携帯の開いた液晶に
映っていた発信者の名は『渡部 建』。
回りの視線から逃れるかのように一旦井戸田はテーブルから離れ、店の入口近くに向かってから携帯を耳に当てた。
「はい井戸田ぁ。今夜は用事入ってるから飲みの誘いならすんなっつったろ?」
相手は同じ『白』である以上に気心の知れた間柄とあり、砕けた口調で問いかける、井戸田。
しかし携帯の向こうから話しかけてくる渡部の声は井戸田のそれとは対称的に重く、そして切羽詰まっていて。
「……どうした?」
瞬時にただ事ではないと察し、声を落とす井戸田の表情が、告げられる言葉によって変わる。

「わかった。場所は? ……了解。毎回毎回ありがとうな。」
渡部から告げられる情報の数々に最初のトーンが嘘のように暗い面持ちになりながら井戸田は電話を切ると、
一つ深呼吸をしてからテーブルの方を向いた。
「…小沢さん、あと設楽さん。悪いけどちょっとこっちに顔貸してくんねーかな。」
不安げな心音を、内面の動揺をまわりに悟られないように。井戸田はテーブルを離れる前のテンションを演じながら、
ちょうど隣り合うようにテーブルに座っていた二人に向けて声を掛け、手招きした。

284 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:52:19
「………?」
井戸田からの呼びかけに一度顔を見合わせ、設楽と小沢は席を立つ。
招かれるままに冷房のさほど効いていない店の入り口に向かった2人に、井戸田は一瞬だけ演じた道化のテンションを捨て
真剣な表情を浮かべ、告げた。
「さっき、Dの近くに『白い悪意』が出た。抵抗した芸人が病院に送られたってよ。」
井戸田の言う『さっき』とは、肝試しではしゃいでいたり、『白い悪意』について土田と話したりしていた、ちょうどその時だろうか。
思わず両手で両頬を押さえる小沢に対し、設楽はふぅと息を吐いて、井戸田に問う。
「抵抗したって事は石持ちか。そいつは誰だ? 『白』寄りか『黒』寄りか…?」
「それが……。」
仮にも『黒』を束ねる幹部の一人とでも言うべきか。冷静さを失わない設楽の問いに、井戸田は少し困ったような表情を浮かべた。
その表情は、しばしの間をおいて井戸田が続けた言葉により設楽と小沢にも伝染される事になる。






285 :Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:58:31
>>274-277の流れにワロタしつつ今回はここまで。

286 :名無しさん:2006/02/27(月) 00:06:58
>>285
うおー!続きが楽しみ過ぎる展開!いつもながら乙です。

287 :名無しさん:2006/02/27(月) 01:00:39
>>285
乙!
相変わらず魅力的な文を書かれる。

288 :名無しさん:2006/02/27(月) 13:42:22
hosyu

289 :名無しさん:2006/02/27(月) 23:44:00
募集

290 :名無しさん:2006/02/28(火) 00:36:33
補充

291 :名無しさん:2006/02/28(火) 00:43:00
怪獣

292 :名無しさん:2006/02/28(火) 02:31:02
一日に何度も保守いらない
保守でスレ埋める気か

293 :名無しさん:2006/02/28(火) 23:09:04
すいませんでした。

294 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:41:48
>>221-227の続きを投下します。

 ブラックマヨネーズの二人が倒れている場所にやって来たのは、なんとたむらけんじだった。思わぬ人物の登場に、チュートリアルの二人はただ驚くばかりである。
「どうしたんですか、こんなとこで」
 徳井がそう尋ねると、ああ、とたむらは笑いながら答えた。
「たまたまや、たまたま。俺さっき店から出てきたばっかりでな。帰ろうと思って歩いてたら、なんかお前らがやばそうやったから」
「え、でもたむらさんの家って、こっちとは反対側の方じゃないですか?」
 福田がすかさず疑問を口にしたが、たむらは笑顔を崩さずに答える。
「ちょっと向こうに寄る所があってん。でも良かったわ、ほんまに間に合って」
 そう言われて、やっとチュートリアルの二人は石を持ち逃げされるところだったと気づいた。はっとして倒れているブラックマヨネーズの二人に目をやると、それぞれの手には徳井と福田の石が握られていた。やはり小杉と吉田はこのまま石を持ち逃げするつもりだったらしい。
「そうそう、石やんな」
 二人の視線の先に気づいたらしく、たむらはゆっくりとしゃがみ、小杉と吉田の手のひらから石を奪った。そして立ち上がり、二人にそれぞれ石を返す。
「えっと、こっちの石が徳井ので、こっちのが福田のやっけ?」
「あー、そうです。ありがとうございます」
 徳井と福田は礼を言いながら、たむらから自身の石を受け取った。たむらはぱんぱんと手をはたき、よっしゃ、と言って笑った。
「これで一件落着やな。うん、だんだんテンション上がってきた」
 最後関係なさそうな言葉を呟いたことにチュートリアルの二人は首を傾げたが、敢えて突っ込まずに別のことをたむらに尋ねた。
「あの、もしかしてこの二人が倒れてるのって、たむらさんがやらはったんですか?」
 たむらはその問いに、おう、と頷いて肯定した。
「能力使ってん。ほら、この石で」
 たむらはそう言って、ポケットから石を取り出した。その石は淡いワインレッドで、決して綺麗とは言えなかったが、石の歩んできた年月を反映しているような、そんな石だった。
 たむらが石を持っていたことも驚いたが、何より二人を一瞬でノックアウトしてしまうような能力を持っていることにも驚いた。

295 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:42:36
「俺のテンションに合わせて、悪口言った芸人に衝撃を与えるっていう能力やねん。どや、面白いやろ?」
 そうは言われたものの、徳井も福田も今は笑える気分ではなかった。だが一応先輩なので愛想笑いをしておき、そして同時に自分の石に目をやる。
 自分の石は今は冷たくなっており、熱は微塵も感じなかった。石を見て、福田は自分の石が熱くなった時のことを思い出し、徳井にそれを伝えた。その時徳井は吉田の暗示にかかっており、とても福田に構っていられる状態ではなかったからだ。
 徳井はそれを聞き、へえ、と言って軽く首を縦に振った。納得したようなしていないような微妙な反応だったが、今の福田はそれに突っ込む気力もなかった。
 すると、二人の話を聞いていたたむらが、納得したように頷きながら言った。
「へえ、そうか。ほんならお前らも、もう能力使えるようになってんねんな」
「はあ、そうみたいですね。何がどうなって、能力が使えるようになったんかは知りませんけど」
 まだ能力を一回しか使っておらず、能力を把握できていない福田が呟くように言った。それを聞いてからたむらはうんうんと頷き、そういえば、と急に話題を変えた。
「お前ら、この石が一体何なんか知っとるか?」
 たむらの問いに、いえ、と二人とも首を横に振る。この反応は予想通りだったらしく、さほど驚くこともないまま、たむらは納得したように頷いた。
「そらそうやろなぁ。まあ、ええわ。ほんなら……そうやな、近くに知り合いがやってる喫茶店あるから、そこ行こう。俺が説明したるわ」
 そう言って、たむらは二人を連れて行こうとしたが、動かずにその場にいる二人に気づき、なんやねん、と尋ねた。
「いや、この二人、このままここに置いといていいんですか?」
 徳井はそう言って、倒れているブラックマヨネーズの二人を指差した。たむらはああそれか、と言って、顔の前で手を振った。
「心配ないて。さっきの俺のテンションはそんなに高くなかった。すぐ起きてくるやろ」
 チュートリアルの二人はその説明でも納得いかないような様子だったが、たむらは無理やり二人を喫茶店へと連れて行った。

296 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:45:09
 たむらは喫茶店に着き注文をするなり、石にまつわる話をし始めた。
 最近、お笑い芸人の間でこういった能力を持つ石がばらまかれていること。そしてその石を巡った二組の芸人たちの存在。
 熱心に話に聞き入る二人に、たむらも話しがいがあるようで、少しテンションの高い状態でそれらのことを話し続けた。
 既に注文した人数分のコーヒーは持ってきてあり、話が終わった頃にはほとんど冷めてしまっていた。
「――そういうわけで、今まででもいろんな奴が石の能力を使って戦ってんねん。これからお前らの石かて、さっきのブラマヨの二人みたいに狙ってくる奴が出てくるやろな」
「そんなん……」
 自分たちが軽い気持ちで持ち始めた石が、そんなに大変な代物だったとは。徳井と福田はため息をついた。訳の分からない戦いに巻き込まれるのは、もうごめんだった。
 しばらくして、ふと気になることがあったというように、福田がたむらに質問した。
「そういえば、黒のユニットの連中は俺らのような芸人の石狙ってるんですよね? そやったらさっきのブラマヨの二人も、黒のユニットにいるってことですか?」
「うーん、そやなぁ」
 たむらは難しそうな顔をして、言葉を続けた。
「確かに自分らの意志で、黒のユニットに行ったんかもしれん。けどもしかしたら、誰かに黒い欠片を与えられて、操られてるだけかもしれんな」
「黒い欠片?」
 徳井が聞き返したので、たむらは黒い欠片についての説明をした。
 たむらはあくまでも彼らが自身の意志で黒ユニットにいるかもしれないとは言ったが、チュートリアルの二人としては、その黒い欠片とやらに操られているに違いない、と思いたかった。
 口は悪いが人の良い二人が、彼らの意志で自分たちを襲うとはどうしても思えなかった。

297 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:46:17
 はあ、と大きなため息をついた後、福田は再びたむらに尋ねた。
「ねえたむらさん。なんとかして、俺らがその戦いを避けることはできひんのですかね」
 たむらは顔をしかめた。
「石を持ってる限りは、いや、石の能力に目覚めてしまったんやったら、もう無理やろな。連中はしつこいぞ。きっとお前らが石を持ってて、能力使えるって知ったら、どこまででも追いかけてくるやろな」
「うわっ、最悪やな……」
 徳井がため息をつきながらそう呟く。それは福田も同感であった。石を持っただけでも二人の生活は一変したのに、まさかそれがこれからも続いていくとは。悪夢のようである。
「まあ、俺からはこれからも頑張れとしか言いようがないな」
 あっさりと返したたむらに、福田は少し不満げに唇を尖らせる。
「ちょっと、そんなん他人事みたいに……」
「他人事やない。俺かて石持って能力使こてんねんから、お前らと状況は一緒や。俺も毎回毎回お前らを助けるわけにもいかんし、その辺りはお前らでなんとかしてもらわなあかんからな。そういう意味を込めて、頑張れよって言うたんや」
 たむらは厳しい口調でそう言った。これには、さすがにチュートリアルの二人も黙ってしまった。
 黙っている二人を前に、沈黙に耐えられなくなったのかたむらは突然席を立った。
「さて、ちょっと話しすぎたか。ほんなら俺、もう帰るわ。またな」
 一方的にそう行って、二人が呆然としている間にさっさと店を出て行ってしまった。
 それからしばらくして、福田がテーブルの上に載っているものに気づき、声を上げる。
「うわっ、コーヒー冷めてるやん。しかもたむらさん、自分の分も払わんと帰ったし」
「ほんまや。ちょっと、これこそ最悪ちゃうか……」
 徳井も気づき、二人は同時に肩を落とした。今更冷めたコーヒーを飲むわけにもいかない上、たむらの分のコーヒー代まで払わなくてはいけなくなった。
 たかがコーヒー代くらいと二人は自分自身を納得させることにして、さっさとレジで会計を済ませ、店を出た。

298 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:49:53
 ブラックマヨネーズの二人とやり合った、その次の週の金曜日。
 毎週レギュラー出演している某番組の収録があって、チュートリアルの二人はスタジオにやって来ていた。
 あれから約一週間経っているが、徳井と福田の間に流れる緊張感はなかなかほぐれようとしなかった。番組中にはそれを出さないようにしていたが、もしかしたら少しはぎこちない感じがしていたかもしれないと思い、収録語の楽屋で二人は顔をしかめていた。
 そうしてしばらく二人が楽屋でぼうっとしていると、突然テーブルの上に置いてあった徳井の携帯が震えだし、その場で踊り出した。徳井はおもむろに手を伸ばし、すぐにバイブ音が止まった携帯を見てメールかなと呟きながら、携帯を操作し始めた。
 そうしてしばらく携帯の画面を眺めていたかと思うと、徳井は突然、反対側に座る福田の方に勢いよく身を乗り出してきた。
「ちょ、福田、これ読んでみ」
「え? 何やねん」
 福田は徳井から携帯を受け取り、画面に目を走らせたかと思うと、たちまち目の色を変えて徳井の顔を見つめた。ほらな、と言いたそうな顔をして、徳井も福田を見つめる。
「あいつら、何考えとんねん……」
 その徳井宛てのメールには、こう書いてあった。

『今日の午後十時、以下の場所に来い。 吉田 小杉』

 その下に呼び出し場所の公園の名前と、ご丁寧に周辺地図まで添付されていた。二人ともが知らない場所だったので周辺地図が載っていたのは幸いだったが、そんなことで喜んでいる場合ではない。
「おい、どうすんねんこれ。行くんか?」
「いや……ほんま、あいつらの考えてる事全然分からへんな」
 福田の問いに、徳井は首を振って明確な答えを避けた。福田はうーんと唸り、腕を組んで考え込むような仕草をする。
 徳井は福田から携帯を受け取り、再びメールをまじまじと見つめた。やはりそこに書いてあることは変わりなく、向こうのメールアドレスも携帯に登録してある吉田のものになっている。
「つまりや、もう一回俺らを呼び出して、のこのこ呼び出した場所にやってきた俺らから石を奪う……っていう作戦なんか?」
 話を整理しようとしているかのように、福田が上を向いて呟くように言った。徳井は同意するようにゆっくりと頷く。

299 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:51:35
「まあ、向こうもそういう意図で送ってきたんやろうな。それで、ほんまにどうする? 福田くん」
 突然意見を聞かれ、福田は少し戸惑いながら言った。
「いや、どうするって……そら、のこのことあいつらの罠にはまりに行くのはアホやと思うけど、でも行かんわけにもいかんやろ。お前はどうなん?」
「うん、俺もお前の言うとおり行くべきちゃうかなと思う。あいつらがもし操られてるんやったら助けてやらなあかんし、自分らで黒に行ったとしてもなんとか説得せなあかんやろ」
 徳井のもっともな意見に、福田は深く頷いて賛成した。
「そうやな。ほんなら行くか。戦いはできるだけ避けたいけど」
「あー、それは同感やな。まあ説得の間、お前が吉田の能力と小杉の能力封じといたらええやろ」
 徳井の提案に、福田は戸惑ったような表情を見せる。
「えっ、けどどうやったら能力が発動するんかまだよう分からへんし……」
 徳井は呆れたようにため息をつく。
「お前、この一週間のことやったのにもう忘れたんか? 一回うめだの舞台で間違って俺の能力封じてしもたやないか」
「あ、ああ、そういえばそんなこともあったなぁ」
 福田はようやく思い出したような顔で、うんうんと頷いた。
 この一週間のうちに一度舞台でネタをやった時、福田は能力を発動させてしまい、徳井の石の能力を何分か封じてしまったのだ。
 ちょうど先日ブラックマヨネーズに襲われて、石を常に持ち歩いていなければ気が済まなくなっていた頃だったので、福田は誤ってポケットの石を握ったまま普通通り徳井にツッコんだのである。
 ネタが終わって楽屋に戻ると、徳井は石が反応しないと嘆き出し、福田は焦りながら舞台で一度石を触ってしまったことを告白した。
 幸いなことにすぐに徳井の石は反応するようになったらしいので事なきを得たが、あのまま徳井の石が使えなくなっていたらどうしよう、とその時は真剣に悩んだのであった。
 その経験で、どうやら福田の石はツッコミ台詞に反応するらしいという結論に至ったので、結果的には良かったのかもしれない。
「ほんなら、とりあえずあいつらにツッコんどけばええんやな?」
 福田が確認すると、徳井は頷いた。
「そういうことや。石握っとくの、忘れんなよ」
「分かってるわ」
 福田は軽く頷きながら、顔の前で手をひらひらと振った。

300 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:53:26
「それにしても知らん場所やなぁ。こんなとこ、来たことないわ」
 その日の午後九時半頃、二人は呼び出し場所の公園の近くだと思われる住宅街を歩いていた。
 道の脇に建っている家々からは光がこぼれているものの、外には人の姿が全く見えない。二人は何度も送られてきた地図を確認しながら、道を歩いていた。
「ほんまにここでええんかな。もうちょっと早よ出とくべきやったか」
 徳井が少し悔しそうな、不安そうな顔をしてそう言った。その言葉に反応して、徳井の前を歩く福田が振り返った。
「ちょっと、もう一回地図見せてくれへん?」
 徳井は頷いて、福田に自分の携帯を渡した。福田はそれを受け取り、携帯をいじってしばらく画面を見つめながら、ぶつぶつと呟いていた。
「――で、これがここで……あれ? これ、地図の下スクロールできるやん」
 福田の何気ない発言に、徳井は驚きの色を顔に出した。
「えっ? まだメッセージがあるってことか?」
「うん、そうみたい。……えーとな」
 福田は改まった様子で、こほんと咳払いをしてから読み上げた。
「“レギュラーは俺らのもんや”って。訳分からんねんけど」
 福田はそう言って、携帯を徳井に差し出した。徳井はそれを受け取って、画面を見つめた。
 地図の下には確かに文字があり、そこには先程福田が読み上げたように“レギュラーは俺らのもんや”と意味深な一言が書いてあった。福田が言うとおり、全く訳が分からない。徳井は携帯の画面から顔を上げ、福田に尋ねた。
「なあ福田、これどういう意味やと思う? レギュラーって何やろ?」
 福田は難しい顔をして、うーんと考え込む仕草をした。
「そうは言われてもなぁ。まあレギュラーで思いつくんは……『あるある探検隊』のレギュラー?」
「もしそうやったら、この文はレギュラーの二人を人質にとってるっていう意味か?」
 徳井の思いつきに、福田はうーん、ともう一度唸った。
「いや、けど腑に落ちひんな。もし人質いるんやったら、もっとでっかく書いて脅しそうなもんやけど」
「ほんならレギュラーて何やねん。まさかガソリンのこととちゃうやろしなぁ……」
 そこで二人は歩みを止め、首を傾げて同時に唸った。

301 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:55:02
 しかしいくら考えても、その答えは出ない。おまけに時計を見てみれば、約束時間がすぐそこまで迫っていた。二人は慌てて歩き出し、地図を確認しながらもまだ頭の中で“レギュラー”の意味を考えていた。
 地図でいえばもうそろそろ公園につくかというところで、福田が突然大きな声で長々と独り言を言い出した。
「あーあ、それよりあいつら、こんな遅い時間に呼び出しよって。明日番組の収録入ってんのに、ちょっとはそのへん考えてくれたかてええやろ。ほんまにもう、あいつらは明日出えへんからって……」
 その独り言で思い出したかのように、徳井がああ、と頷いた。
「そういえばそうやったな。何の番組やったっけ?」
「あれや、“せやねん!”や。ほんまに、自分のレギュラー番組くらい覚えとけよ」
 福田が呆れたように徳井の問いに答えた途端、福田と徳井ははっとして立ち止まり、同時に顔を見合わせた。今の自分たちの会話の中に、重要な単語が混じっていたではないか。
 まさに先程、その単語を発した福田がおそるおそるといった様子で口を開いた。
「なあ、レギュラーってまさか……」
「ちょっと福田くん、もしかしてドンピシャちゃうかこれ」
 徳井は再び歩き始めながら慌てて携帯を操作し、地図の所より下にスクロールさせて例のメッセージを出す。それを見つめながら、徳井は納得したような顔つきで頷いていた。

302 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:56:25
「一応意味は通るな。番組のレギュラーは俺らのもんや、っていう意味やろ?」
「おいそれ……わざわざ俺らへのメールに書いてきたってことは、まさかあいつら、俺らのレギュラー番組を奪うつもりなんか?」
 徳井は一度唸ってから、首を横に振った。
「いやいや、そんな簡単には無理やろ。プロデューサーとかとコネがあるんやったらまだしも、あいつらそんなんあるわけないやろ?」
「まあ、そらそうや」
 けど、と福田は言って、真剣な表情を見せた。
「こんなに自信満々に書いてきてるんやったら、ただ俺らをビビらすための嘘、っていう感じはせえへんよな……?」
 ごくり、と唾を飲み込む音が、ひんやりとした夜の空気に伝わって響いた。
 レギュラーを正当な――といっても、コネを利用するのは正当とは言えないが――やり方で奪えるならいいが、ブラックマヨネーズの二人にはそんなことはできない。ならば最後に残された手段は一つ、強引に奪うしかないだろう。
 つまり、チュートリアルの二人がいなくなればそれでいい――あの二人がそう考えていたとしたら。
 その考えに至った瞬間、二人の背中に冷や汗が伝った。
「……嫌な予感がするのは俺だけか?」
「いや、俺もやねんけど」
 その時、ちょうど住宅街の外れに、木の生い茂る公園があるのが見えた。地図と現在地を見比べながら、二人は慌てたように公園の方に走り出した。


 現在時刻、午後九時五十五分。


今回はここまでです。

303 :名無しさん:2006/03/01(水) 12:38:05
乙!
続きが気になります。

304 :名無しさん:2006/03/02(木) 01:14:15
捕手

305 :名無しさん:2006/03/02(木) 12:22:41
乙です!
二度目のバトルですね。楽しみです。

306 :名無しさん:2006/03/02(木) 13:18:58
hosyu

307 :名無しさん:2006/03/03(金) 01:44:16
保守

308 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:03:56
97年末の話を落としに参りました。
まだ白のバカルディの話です。

309 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:08:35
★バカルディ・ホワイトラム<1>(side: 三村)


「すいませ〜ん!」


どさ回りの営業の帰り道、声をかけてきたのは女二人組。

大きな胸に大きな目。そろって小柄な童顔の女が目の前で笑っている。
見てくれはちょっと可愛い。通りで「普通に」声をかけられたら悪くないかもしれない。

…まあ、俺にはカミさんがいるし、どう考えても「普通」の状況じゃねぇわけだ、今は。

三村は頭の中で状況を整理している…のだが。
正直、それより何よりものすごく気になってしまう部分があったりする。

…こいつらもやっぱり芸人ってくくりだったのか。

三村マサカズ30歳。職業、お笑い芸人。
もうすぐ芸歴も10年という長さになるのに仕事のお寒い我が身のせちがらさよ。
目の前にはグラビアから芸人の領域に身体一つ、いや乳四つで殴り込みに来た女が二人。
寄せた胸だけで一気にスターダムへと駆け上がるパイレーツを遠い目で見る今日この頃。

310 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:09:32



そんな女たちの明るい笑顔とうらはらに、胸元の鮮やかな赤い石には黒い影がさしている。
それを見ただけでむこうの用事も想像がつくというものだ。


「石、渡してもらいに来ましたぁ」
「…逆ナンってわけじゃねぇんだ、やっぱり」


甘ったるい声が耳に響く、全く最悪だ、女にも襲われるんだからやってられない。


「あー…女と闘うとか、俺、ねぇわ…」
「俺もねぇな、100ねぇ」


ぼそりと嫌そうに呟いた大竹に、三村も同調する。
今をときめくパイレーツの胸の谷間にはそんなに興味ねぇから、おとなしく帰って欲しい。
何でこんな目にあわなきゃなんねーんだ、いい加減にしてくれ。

311 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:10:09


「「…せーの!」」


そんな我が身の不幸を嘆いている間に、女たちが攻勢に転じてしまった。
赤黒い石は次第に光り始め、二人揃ってあのポーズをとる…ああ、猛烈に嫌な予感。


「「だっちゅーの光線!」」


声があたりに響くとともに、強烈な赤色の光線が放たれる。
だが凄まじい勢いで襲ってきたその光は、透明な壁に当たって霧散した。
よく見ればブラックスターが大竹のジャケットの左ポケットで光っている。
どうやら状況を見て素早く石を使っていたらしい。

勢いに乗った女たちは光線をさらにもう1発、連発してきた。
それはどちらも大竹の「世界」の前に散ったが、大竹と三村の頭には一抹の不安がよぎる。


「…大竹、どんくらいもちそうだ?」
「そんなに長くねぇぞ、俺いま疲れてるし」
「だよな、俺もだ」
「どうすっかな」
「どうすっかってお前…どうしょうもねぇよ」


312 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:10:41


男二人の会話からは解決策の生まれる気配もない。
しかしこちらからも攻撃をしないことにはどうにもならないと気づき、互いに呼吸を合わせる。
大竹が三村の顔をちらりと見て言うのはおなじみのあの台詞。


「お前ってよく見るとブタみてぇな顔してんな」
「ブタかよ!」


これまたおなじみのツッコミとともに、ピンク色の生きたブタがビュッと飛んでいく。
非常に間抜けな光景ではあるが、当たったら本当に痛いし怪我も免れない技だ。ブタは重い。
パイレーツ二人は慌てて「だっちゅーの光線」で応戦し、ブタと光線が正面衝突して相殺される。
「ブヒィーーー!」と断末魔の叫びが悲しく響き、どこから呼び出されたのか謎なブタは姿を消した。

三村は次のボケを促すように大竹を見たが、大竹は視線を返すだけで言葉をつむがない。
相方が「世界」の維持にかなり疲れているのを見てとった三村は、何かツッこめる物をと探しだす。
しかし、あいにくアスファルトの上には小石一つ見当たらず、徒労に終わった。

その間に、パイレーツも新しい動きを見せる。
好未が肩に下げたカバンの中をさぐり、透明な中に虹色の光のまたたく石をとりだした。

襲撃にむかうにあたって、黒の上層部がこの石を「補助に」と二人に与えたのだ。
『この石を使えば少しなら体力や怪我の回復ができるし、小さな願い事ならかなう』
…そんな風に彼女たちに石を渡した男は話していた。


313 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:11:15


「…はるか、これ使うよ!」


声とともに、七色の光が石を握ったその手からあふれ出すように広がって、はるかの身体を包んだ。
光線発射に体力を使ったのか肩で息をしていたはるかは、活力を取り戻したように背筋を伸ばす。
それを見た好未ははるかに石を渡し、今度は逆に自らの回復をしてくれるよう頼んだ。


「すごい、効くねこれ」


呟きながらはるかは透明な石を握りこみ、精神を集中させる。
好未のときよりは弱かったが、はるかの手の上の石から放たれた光は、好未の身体を包んだ。
元気を取り戻した女二人は、またも攻勢に回る。


「えーいもう一回…「「だっちゅーの光線!」」


明らかにマズい状況だ。この調子で連発されては確実にブラックスターの限界が遠からずやってくる。
三村の隣で、大竹は光線が発射される度に必死に精神を集中させて「世界」を保っているけれど。


314 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:11:48


…これは長期戦になりそうだ、最高に分が悪い。
そう思った瞬間、はるかが今度は別の台詞を叫んだ。


「だっちゅーの超音波!」


…何だそれ、もしかして新ネタか?

言葉とともに赤い環状の音波らしきものが飛んでくる。
聞き覚えのないネタに集中力を削られたのか、それとも石の効力が薄れてきたのか。
「世界」を守る透明な壁は完全には機能せず、衝撃が部分的に伝わって耳がキィンと痛んだ。


「くっそ、痛ぇ…」
「…すまん三村、無理、もうぜってぇ無理…ボケとかする暇ねぇ」
「マジかよ!」


だっちゅーの光線…いや超音波恐るべし。この威力をなめてはいけなかった。ここまでとは予想外。
…しっかしホントどうかと思う戦闘風景だな、間抜けなのに追い込まれてるなんて…。
三村は鬱々としてくる気持ちをどうにかおさえようと身体に力を入れる。


315 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:15:32


とはいえこのままでは何一つ解決しない、何か打開策を考えなければ…。

そんな気持ちで大竹の方を見やれば、額には大粒の汗が浮いている。
少しでも防御するために最大限集中しているんだろう、確かにこの状況でボケを望むのは酷だ。

しかもこういうときに限って道ばたに物は落ちてねぇし。
さすがに電信柱なんて飛ばせねぇぞ、何か小さいもんないのか。


「あーくそ、何か落ちてねぇかな…」
「…おい、アレ」
「あっ!」


大竹の指差した先、道の端のくぼみには、見覚えのある缶が。





316 :バカルディ・ホワイトラム<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:16:29
★バカルディ・ホワイトラム<2>(side: 大竹)



アスファルトのくぼみに隠れるように転がっていた空き缶。
三村がビシッ! と指差して全力で叫べば、立派な飛び道具になる。


「むらさきっ!」


飛んでいったおなじみのファンタグレープの缶は、好未の額にガッコーンと当たった。
もはや容赦する気もないらしい三村の高速ツッコミは結構な衝撃だったらしく、好未はぐらりと身体を傾がせる。
それを見ていたはるかが、「負けない!」と石を握り込んだ。


「だっちゅーの光線!」


はるかが三村を見据えて叫ぶ。胸元では黒い影の走る赤い石がきらめいた。
サァッ、とその石の真っ赤な光が三村に襲いかかってくる。

咄嗟に大竹は自分の石で「世界」を作り出し、相方を守ろうとした。
しかしもはや戦闘の中で力を使いすぎたためにその光は三村まで届かない。
もろに石の力を受けた三村は、「うあっ!」と叫びをあげた。


317 :バカルディ・ホワイトラム<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:17:00


両手で眼を覆ってその場に倒れ込む三村に、さらに追い討ちをかけるようにはるかが叫ぶ。
それはもう限界をこえている身体からむりやりに絞り出すような声だった。


「だっちゅーの…超音波っ!」


その声を聞いても、もう大竹の石は微弱にしか反応しない。
耳にさすような痛みを感じたが、何の防御もできていなかった三村はもっとひどい状態なのだろう。
耳をおさえて転げ回る相方の姿。唇をゆがめて笑う豊かな胸の持ち主に対して強い怒りを覚えた。
けれども、怒りのせいで逆に冷静になってしまえば、あの胸から出てくる光線やら超音波で
苦しむ自分たちの滑稽さに気づいてしまって少し悲しくなる。

…くっそ、なんつー嫌な感じの戦闘風景だ。

だが、三村にはバッチリ効いてしまったし、これじゃあ攻撃もできない。
さらに好未が息を吹き返し、例の透明な石を手にはるかの体力を回復しようとする。
ブラックスターはもはやうんともすんとも言わない、根性ねぇ石だチクショウ。

…絶体絶命。

もう切り札のあの石を使うしかない。
ここのところ明らかに使いすぎだとわかってはいたが、目の前の危険を回避するにはこれしかなかった。


318 :バカルディ・ホワイトラム<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:20:04


「…めんどくせっ!」


疲れた声で吐き捨てながら、とりだしたのは虫入り琥珀。
ありったけの集中力を動員して、蜂蜜色の石に力を注ぎ込む。
放たれた強力な衝撃波は、襲撃者パイレーツを完全に打ち倒していた。


三村から視覚と聴覚を奪ったはるかは、すっかり意識を手放している。
好未が、みぞおちあたりを押さえながらひとりこちらを暗い目で見上げてくるのでにらみ返した。
土をなめた女の憎しみの籠った目にも、もう動じることもない。


「あっ、大竹! お前虫入り琥珀使っただろ!」


はるかが気絶したせいか、わずかずつ感覚が戻ってきたらしい三村が薄目で状況を見て叫ぶ。
が、大竹の方はまだ耳が聞こえにくくなっており、三村が何と言ったのかいまいちわかっていない。
おそらく虫入り琥珀を使ったことを責めているのだろうが、今回はああするしかなかった。

319 :バカルディ・ホワイトラム<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:20:52


…今回はああするしか、って何回言ったかもう覚えてねぇけどな。
そんなふうに心の中でつけ加えて、石の代償の重さに頭を抱える日々。


毎日毎日毎日…じゃねえこともあるか。

けど、とにかくもういい加減にしろ、と言いたくなる。
あまりの黒からの襲撃の多さに、そろそろ頭がプツッといきそうだ。

何でか知らないが、最近黒の奴らに俺らの石は大人気。
特に俺のブラックスターは妙に人気があるらしく、やたらに狙ってくる奴が多い。
確かにこいつは防御には相当有効だけど、そんなに人のもんばっかり欲しがることもねぇだろうよ。

うんざりしながら、その場を後にしようとして三村を見やる。
目蓋やら耳やらを引っぱっている相方に、多分それ意味ねぇと思うぞ、と心の中でツッコミを入れた。
石の影響は一生モンじゃないんだし、ほっとけば数時間で元に戻るだろう。

それよりむしろ今は、自分の石の反動のものすっごい倦怠感が問題だ。
もう即帰宅。ガンガンに引きこもっていく。けど腹減った。けど寝たい。どれをとれっつーんだ。


320 :バカルディ・ホワイトラム<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:23:37


「三村ぁ、とにかく帰ろうぜ!」


多分まだあまり聞こえていないだろう三村の耳もとで怒鳴る。
三村がこちらを向いて頷き、向きを変える。
そのつま先がこつん、と何かを蹴り、俺の足下までそれは飛んできた。


「何だ…石じゃねえか」


疲れた身体にむち打って拾い上げればそれは、好未が使っていたあの石で。
体力を回復させられるなんて便利だし一応もらっとくか、とポケットにしまいこむ。

それを三村は一瞬見とがめたようだったが、耳と眼が不自由な状態で会話するのも面倒だからか、さらりと流した。


「アレだっ、飯でも食ってくかぁ?!」


結局空腹をとることにした俺の怒鳴り声にもう一度三村が頷いて、二人で夕暮れの道を歩いていく。
オレンジの光の中、ひきずる二つの影が長くアスファルトに伸びた。





321 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:24:43
パイレーツ(西本はるか/浅田好未)

石:クロコイト(紅鉛鉱)二人で一つの石をわけあい、ペンダントヘッドにしている。
性的な苦手意識を癒す。創造性や生殖に関連した生命力そのものを示すチャクラを活性化させる。
性的なトラウマを持つ人、創造性が欠乏した人に有効。
能力:
二人で胸を寄せる決めポーズとともに「だっちゅーの光線!」と叫ぶと胸元から赤い光線が出る。
また、「だっちゅーの超音波!」と叫ぶと胸元から赤い環状の目に見える音波が出る。
ちなみに、光線を浴びると目に激しい痛みを感じて一時的に盲目の状態になり、
超音波を浴びると耳に激しい痛みを感じて一時的に耳が聞こえなくなる。
条件:
二人で使用した場合、一度に打てる回数は三発が限度。
はるか一人でもこの技は可能だが、回数は同じでも威力が弱くなる。
代償:
一発打つごとにネタを後ろから忘れていく。また、体力が削られるため疲労感を覚える。


322 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:25:35
好未のとりだした石:
レインボークォーツ(七つの光が願いを叶える)
能力:
持ち主の、他人に関する害意のない望みを叶える。ただしもとの状態以上に他人の能力を引き上げたり、
存在しないものを作り出して他人に与えるような力はなく、使用者自身に関する望みも一定のこと以外叶わない。
つまり「仲間の怪我を治したい」「遠くにいる仲間に自分の持っている傘を武器として与えたい」は叶うが、
「自分の怪我を治したい」「仲間の力を限界より強くしたい」「仲間にバズーカ砲を作り出して与えたい」は叶わない。
また「他人の持っている自分の傘を自分に返させる」ことは可能だが「他人の傘をとりあげて自分のものにする」ことは不可能。
条件/代償:
他人に害を与えることを望む場合には、同等の害が使用者自身にももたらされるため注意を要する。
「敵に動けなくなるほどの怪我を負わせたい」という願いは叶うが、同時に自分も動けなくなるほどの怪我を負う。
叶えられる望みの大きさは「使う人間の実力」「石とどの程度波長が合うか」に左右される。
また、石を使用した際、その石に関することを中心に、使用者とその場にいたものの記憶が曖昧になる。
望みの害意のあるなしに関わらず、石が叶えた望みが大きければ大きいほど、記憶の損傷は激しい。

[東京花火]の設定と同じです。

323 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:26:40
大竹一樹(バカルディ)
石:ブラックスター(星形の輝きが浮かぶ黒色のダイオプサイト(透輝石))
理性や知性を表し、冷静で理性的でいられるよう導く。
能力:
自分ひとり、もしくは自分と許可された人間数人だけが入れる「大竹ワールド」を出現させる。
相方の三村はこの空間に出入り自由で許可も必要としないが、それ以外の人間は大竹本人による許可が必要。
ある種のバリアーのようなもので、外部からの攻撃はこの空間内に届かない。
条件:
三村以外の人間は大竹の許可を得た上、「やってんの?」という
のれんをもちあげる仕種とともに空間内に入らねばならない。
入る人数が多ければ多いほど持続は困難。極端に使える時間が短くなる。
三村と2人の場合、もっとも長い時間持続させることができる。
また、内部からの攻撃には防御不可能なため、許可を与えた人間が内部で攻撃を開始すると弱い。
使いすぎると代償として、極度の倦怠感と疲労感に襲われる。

三村マサカズ(バカルディorさまぁ〜ず)
石:フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める
能力:ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。
条件:その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、
人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。
飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。


324 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:30:01
バカルディからさまぁ〜ずにいたる三部作の(1)として書きました。
一応この話は完結しています。

タイトルは「バカルディ」社のラム酒の名前より。
ホワイトラムとブラックラムがあるという都合の良さに惹かれましたw

325 :名無しさん:2006/03/04(土) 13:43:48
>>324
乙です。さまぁ〜ずっぽさが自然に出ててすげー良かったです。
続きをwktkしながら待ってます。

326 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:53:42
ハローさんの話。
話自体は短編ですが、ビット編2に繋がる感じ。


手の中に、つるりとした固形状の感触がある。
なめらかで冷たくて無機質なような有機質なような、そういう触感だ。
つい先日手に入れたものだ。欲しくもなかったが。
それが高価なのも、最近知った。
そして、何かしらの力を秘めていること…は、大体勘付いていたか。
ともかく、どちらかといわずとも歓迎できない部類の贈り物だ。
もっとも突っ返そうにも送り主は不明なのだが。
ため息をつきかけて、ふと頭に浮かんだ迷信にそれを躊躇し、結局飲み込んだ。
信じてはいない。けれど、皆不意に出て来ることはあるだろう。
北に枕を置くと駄目だとか、夕暮れ時は魔物が出る、だとか。
方便としての活用だけで、毒にも薬にもならない、いわゆるそういうものだ。
右手を開く。待ち構える左手にすとんと収まる。自然な落下だ。
どうやらこういう不可思議な石も引力や重力に逆らうことはないらしい。
白、というかごく薄いクリーム色の、硬質なもの。
石にも大きめの飴玉のようにも見えるが、これは象の牙だ。
つまり、今この手中にあるものの後ろには、一頭の象の死がある。
それだけならまだしも、と思い、一呼吸置く。
「…厄介な。」
それだけ一言つぶやく。後を追うように息が出て行き、はたと苦笑する。
ため息は幸せを一口分連れて逃げ、うっすらと白く消えた。

327 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:54:53
しかし、この寒い中屋外で人を待つのも辛いものだ。
電柱に寄り添うようにして往来に突っ立っていると不審人物に間違われないかと心配なのだが、幸い人通りも少ない。
二十分ほどここにいるが、その間犬を連れた爺さんが一人通っただけだ。
見回すとすぐそばに喫茶店が見えたが、そこでぬくぬく待っていたら怒られそうな気がした。
待ち合わせるならもっと時節も考えてほしい、とひとりごちる。
見上げると、不安定になるぐらい青い空がどこまでも広がっていた。
そんなことでいちいち心がぐらつくような年でもない。だが、これから自分の行うことを考えると、青空のせいだけではなく気落ちした。
ふと手持ち無沙汰になり、何の気なしに象牙をつまみあげて観察する。
簡素な白は、ただ磨かれただけで少々寂しい。
判子にでもしてしまうか、と思ったが、ふと考える。これは戦闘用だ。
ハンコ片手に戦う。…滑稽だ。
いや、芸人たるもの面白くないよりは面白い方がいいのだが、下手を打てば死ぬような場面で無理して笑いを取るのもどうかと思う。
「山崎」と彫ろうと「ハロー」と彫ろうと、馬鹿馬鹿しいことにあまり変わりはない。
第一、割と芸風と違う。
…そもそも誰が笑ってくれるというのだ。敵か?
敵も芸人だ。敵も命がけだ。ツッコんでもくれないだろうと容易に予想出来る。
嘲り笑いならいただけるかもしれないが、それは多分腹が立つだろう。
結論、判子は却下。
そう寒さのせいで薄ぼんやりとしたとりとめのない思考が結論づいたあたりで、丁度待ち人がやってきた。
とはいえ、色気のあるものではない。石をポケットに突っ込む。
「どうも。」
軽く会釈すると、よ、という短い返事が返る。
「今日も寒いな。」
「そうですね。」
会話とも呼べないような薄っぺらい受け答えをしてから、男が鞄を開けた。

328 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:55:35
「ほい、今回の分。」
「…どうも。」
表情のない男が差し出すのは、いつも通り中くらいの大きさをした黒い紙袋。
もっと違うものであればいいのに。
ぼんやりと思うが、具体的に何がいいとも浮かばない。
熊のぬいぐるみでも、腕時計でも、何でもいい。
要はこれでさえなければいいのだ。
そうであれば…言い換えよう、「これは嫌だ。」
浮かんだ言葉も思考の波に流れて飲み込まれ、声に出すこともないまま何事もなかったように消えていく。
ずしりとした黒い袋を受け取る。どうせ中身もいつもの黒いものだ。
黒に黒、というのはいかがなものかと思う。別に外見が何色であってもそのものの本質は変わらないのだが、人間はごまかしが好きなものだ。
袋を渡して、名前も知らないいつもの男は去っていった。
いや、毎回違うのかもしれないが、そんなことお互い気にも留めないので分からない。
どこかのスタッフなのかもしれないし、見知らぬ芸人かもしれない。
揃って表情のない顔は、よほど元のつくりが個性的でない限り見分けるのが難しい。
しかし待たせておいて、あっさりとしたものだ。…いや付き合わされても困るので別にいいのだが。
わざわざコレを下っ端に運ばせるのは、顔見知り達に自分たちの素性を知られないようにという用心か。
下っ端はどうでも補充がきく。使い捨て、切り捨て、上だけは生き残れる。
蜥蜴の尻尾切り。ふとそんな言葉を思い出す。
いくら分析したところで、それは邪推というものだ。どうせ反抗もできないし、する気もさほどない。
心の奥に諦めが染みついている。本当に嫌気が差す、とまた深い息が洩れた。

329 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:56:29
袋がじゃらりと、小さく硬いものがいくつもぶつかる音を立てて揺れた。
中身をそっと確認する。いつものように、といっても未だ慣れない禍々しい黒が、ビニール袋に小分けされていくつも入っていた。
麻薬みたいだな、と思った。ドラマや映画によく出る、白い粉が入った小さな紙袋。
見た目はだいぶ違うが、なぜかそう感じる。中毒性があると聞いていたからだろうか。
袋を鞄に突っ込むとさっさとその場を離れる。
これがまた誰かを狂わせるのだろう。触れた手や鞄まで汚れたような気がした。
いや実際汚れている。使ったことはないにせよ、今こうして関わっているのだ。
けれど、どうすることもできないではないか。
知っている親しい誰かが苦しむかも、死ぬかもしれなくても。
己には何もできない。痛いほど分かっている。弱いから従っている。駄目な自分だ。
割に広い道は人とすれ違うこともない。平日の午後一時、町はどうにも力が抜けていた。
ふと、ポケットで揺れる軽い重さに、布越しに手を触れる。
こいつはまだ白いままだ。いつか黒ずむのかもしれないが、まだ何も言われていない。
…そういえば、まだあの黒いもの―正式な名前も知らないが、あれはどうやって使うのだろう。
袋の中に石を入れる。白地にじわりとまわりの黒が広がっていく。
想像をしただけで寒気がして、今すぐ象牙を乱暴に磨き上げたくなった。
拒否反応が出るということはまだ迷っているのだろう。
黒に。いや、そもそも石に。
戸惑いがあった。善良とは言えないにせよ、ただの一市民だ。
…少々自分勝手ではあるにせよ、ただ人を笑わせるのが好きな男だ。

330 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:57:03

黒いものの欠片を指定されたテレビ局の楽屋へそれぞれ届けて、トイレへ行って手だけ洗って出て来た。
迷信と同じく、意味はない。まじないのようなものだ。
弁当の紙袋の隣に放ってきたアレは、きっとスタッフが上手く分配するのだろう。
我も我もとたかってくるのだろうか。それとも自分のように迷いがあるのだろうか。
あってほしいと思う。まだ引き返せると。
可能動詞と実際にできうることは別物だと知っていて、それでも。
つい他人事のように見てしまうのは、そう切羽詰まっていないからだろうか。
断って危害を加えられるのが怖いから、黒に入っただけだ。大それた野心も欲望もない。
完全に長い物に巻かれている。情けなくはあるが、怪我をしたくはなかった。
あのおぞましい欠片もまだ直接もらってはいない。それもそうか、運び屋が薬漬けになっては困る。許されればずっと運び屋でいたい気分だ。
象牙を取り出して握りしめると、少し落ち着いた。
手が震えていたことに気付く。それほどあの欠片が嫌なのか。
…お前は、どうだ。いつか真の意味で「黒」になる時が来たら…受け入れてくれるか。
もちろん石が答えてくれるはずもなく、ただしんと白くそこにあるだけだった。
俺は嫌だ、と思う。
きっと流れには抗えないけれど。

トイレの前で十分近く固まっていたのは、幸い誰にも見られていなかったようだ。
前は大丈夫だったのに。…今回は特に量が多かったからだろうか。
額から汗が一筋垂れるのを袖で拭うと、さっさと歩き出す。
今はただ帰りたかった。忘れたかった。どうせ逃れられないのだから。
局の正面玄関を出て、駅への道を行きかけ…ふと立ち止まる。
石の気配を感じた。少々不穏な、でも攻撃的ではない。
さっと振り向くと、テレビの中で見慣れた人が立っていた。
若干広い額にしゃくれた顎に目の下の隈、人を食ったようなにやにや笑い。
そんな顔立ちの、三十代半ばぐらいの男。
事務所も違うし交流もないし仕事を一緒にしたことはない。
だけど、違う方面での噂はよく聞いている。
…嘘だろ。

331 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:58:28
「…くりぃむしちゅー、の…有田…さん?」
唖然となって呟いた。
そんなような表現が正しいように思える。
「やー、どうも。ハローくん、だっけ?」
ひらひら手を振ると、にこにこ笑って近づいてきた。
焦って思わず身構える。攻撃には適さないことを忘れて、掴んだ石をかざす。
「おっとっと、ちょい待ちちょい待ち。
 別に手荒な真似はしないって。今日はお話…っていうかお取引に来たから」
「…取引?」
「そそ、悪い話じゃない。俺も仕事あるし、手短にすますけど」
ますます怪しい。白の幹部が、黒の下っ端に何の用だというのか。
有田が話を続ける。顔中ににやにや笑いが広がっている。
「実はさあ、ちょっと手伝ってほしいことがあんのよ。
 ちょっと前つかまえた黒の奴から聞いたんだけどさ、君の能力」
眉をしかめ、舌打ちする。怒るでもなく、しまった、と思う。
下っ端同士で自己紹介程度に能力を教えていた奴はそこそこいた。
迂闊だった。面倒なことになるかもしれない。
「や、引き抜きとかそんなんじゃなくて。
 ただ、ちょーっとボランティアにご協力。」
「…具体的に、どんなことについて?」
知らず声が固くなる。そんなことを言われて、信じられるはずがなかった。
にや、と大きく相手の口が歪む。

332 :Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 17:02:11
「目には目を大作戦。」
「…は?」
皮肉ではなく、純粋に問い返す。
「あ、この呼び方じゃわかんないか」
わかるはずがない。復讐、としか目星もつけられなかった。 こっちに話を持ってきたということは、自分の能力が何かしら役立つ部類のものか。
「んー、ちょっと話すと長いんだけど…」
そう前置きされた話の内容にも、嘘臭い点は見あたらなかった。(ただ、話し方は冗談のようだったが)
象牙を見ても、警戒の光はなかった。どうやら信じられるらしい。
「どう、協力してくれる?」
「…わかりました。
 ……その、代わりといっては何ですが、俺も白に入れてくれませんか。」
続けて自然とこぼれた言葉に耳を疑った。いや、この場合は口か?
何を言っているんだ、正気か。我ながら思う。
だがもう溢れ出た言葉は喉には戻らない。
そして、本心であった。ずっと願っていたことが向こうから来たのだ。
逃げたかった、心の底から。
無駄だと自分に言い聞かせていた。痛い目には遭いたくないと。
だが、どうやらどうしてもここには耐えられなかったらしい。石も俺も。
そんなに心根のいい人間ではないけど、悪事をずっと見て見ぬふりできるほど鈍感でもない。よく罪悪感に押しつぶされずに我慢できた方だと思う。
誰かがきっかけを作ってくれれば、と知らず思っていた。
どうせ白に協力したと知れたらただではすまないだろう。引き抜き目当てではないと言いながら、この人も確信犯かもしれない。
自分が黒の活動に乗り気ではないと聞いたのだろうか。
…まあ、そんなことはどうでもいい。やっと踏ん切りが付いたのだ。
やけくそのように、覚悟を決めた。惰性で悪役に回っていてはいけない。
ヒーローとは言わずとも、地球防衛軍の下っ端ぐらいにならなれるはずだ。
戦おう。待っていても、もう元の日常には帰れないんだから。
俺の言葉を聞いて事務所違いの先輩は満足げに微笑み、
「んじゃ、一応石浄化しとかないと。」
と象牙に手を伸ばし、曇り一つないその姿に驚いて、
「…本当に黒?」
ときょとんとした目で聞いてきて、俺を久々に笑わせたのだった。

333 : ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 17:05:21
ここまで。
ハローさんの石は能力スレにあるやつですが、一応次の話の後に。

334 :名無しさん:2006/03/05(日) 03:15:05
乙です。
最近投下のペースが上がってきましたねw

335 :名無しさん:2006/03/05(日) 14:55:15
乙!
したらばが閑古鳥なのでそっちもよろしく

336 :名無しさん:2006/03/05(日) 23:29:32
書き手さん、乙です。+保守

337 :名無しさん:2006/03/06(月) 14:08:39
hosyu

338 :名無しさん:2006/03/07(火) 14:16:29
あげ

339 :名無しさん:2006/03/08(水) 16:07:12
キャッチャー

340 :名無しさん:2006/03/09(木) 10:14:49
イン・ザ・ライ

341 :名無しさん:2006/03/10(金) 08:31:10
保守。
書き手さんガンガレ

342 :名無しさん:2006/03/10(金) 22:36:23
保守。

343 :名無しさん:2006/03/11(土) 18:45:09
ほしゅ。

344 :名無しさん:2006/03/11(土) 21:00:36
もう少しで1話投下できたのに、PCの電源が落ちた拍子にファイルが消えた…orz。

345 :名無しさん:2006/03/11(土) 23:36:08
>>344
おぉ、落ち込まないで、としか言えない。
ゆっくり待ってまつ。

346 :名無しさん:2006/03/11(土) 23:41:45
>>344
ドンマイ!めげないでゆっくり書き直してくださいな
楽しみにしています。

347 :名無しさん:2006/03/12(日) 22:43:59
保守

348 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:08:11
>>19の続き。

ブロック塀に小さな亀裂を入れて深々と突き刺さるのは、丁度弓道用の矢と同じくらいの太さに精錬された、棒状の細い岩。
一瞬何が起こったか佐久間には分からなかった。
再び、空気を斬って矢が飛んできた。一本や二本ではない、かなりの数。
人間というのは、こういうとき本当に身体が動かないもので。
思わず目を瞑った。カカカカンッ、とリズミカルに石矢が刺さっていくのが分かった。

矢が飛んでこなくなったのを確認し、佐久間はゆっくりと目を開けた。
身体には、傷ひとつ無い。
(―――なんか知んないけど、助かった)

ホッと一息吐いて腰を下ろそうとしたが、服がピンと引っ張られた為に出来なかった。
何だ?と肩口を見ると、矢が服の肩口の布を貫通したまま石肌に刺さっている。
よく見ると、矢はズボンもTシャツの裾も見事に射抜き、壁に釘で打ち付けたかの如く体を貼り付けていた。
佐久間はぐいぐいと体を起こそうとするが、服を破りでもしない限り、動けそうにない。
(これはもしかして、もしかしなくても…“捕まった”?)
やばい、と悟ったが時既に遅く。


「見つけた」
何とかこの張り付けから脱出しようと奮戦している内に、前方から松田が歩いてくるのを見た。
少し疲れているのか、浅い息を繰り返し吐いている。
四大元素の力は殺傷能力が高いせいで他人を捕まえるには大怪我をさせて捕まえるしかないが。
火や水と違い、最初から個体である土は精錬すればどんな形の物でも創ることが出来る。例えばこの、戦場で使われるようなトラップであったり。
近づいてくる黒い欠片の禍々しい空気に激しい嫌悪感を覚え、眉を顰める。


349 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:10:25
「ひっ、い、嫌だ…。助けてっ……!」
叫んだつもりの声は小さく引きつっていて、砂と共に風に攫われた。
暴れても逃げられない状況に、自分でも顔が青ざめていくのが分かる。
その時だ。

「よしきた」

と酷く場違いに明るい声が頭上から降ってきたのは。
…それはずっと望んでいた声で。
佐久間はゆっくりと閉じた目を開いた。
声の主は佐久間の身体が貼り付けられているブロック塀に足を掛け、そのままの勢いで大きくジャンプし松田との間に立ちふさがるように着地する。

「スタイリッシュなお気遣い芸人あべこうじが助けに来たぜい!」


余計とも思われる前置詞はともかく、予想外の乱入者の登場に松田は目を丸くした。
「ほ、本当に来た……」
松田がほぼ無意識にそう呟く。
「そりゃー来るよ。ピンチにはお助けマンが表れるのが世の仕組みってね」
聞こえていたのか、きゃっきゃっと佐久間と対面した喜びを分かち合っていた阿部が顔を向ける。

阿部は笑ったときと怒ったときの目つきが別人のように違う。
その“怒ったとき”と同じ鋭い視線に射抜かれ、一歩たじろいだ。

松田がサッと手を上に翳すと、細かい砂が舞い上がって手の中にに集まり刀が作り出される。
「お前か…松田」
阿部が懐から取り出したのは、二本の短い折りたたみ傘。
水玉模様とチェック柄のよく見かけるビニール傘で、特にこれと言った強そうな要素はない。
松田の振り下ろした刀を二本の傘を交差して受け止め、体格の差を利用して何とか押し返したものの、この一撃で傘の布は破れ、骨は何本も折れ曲がっていた。


350 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:13:08
口元を尖らせ、使い物にならなくなった傘をじっと見渡す。

「“何すぐに壊れてんの、もっと強いはずでしょ?”」
頑張れ、と何やら傘に妙な激励の言葉を掛けたと思った瞬間。ぼろぼろの傘が光を放つ。
光が収まった頃には、傘は完璧に元通りになっていて、加えて薄いベールが周りを包み込んでいる。
一度抜けた歯が生え替わるときに、より固いものとなって生えてくるのと同じように、壊れた傘は、今度は二度と壊れないような丈夫な造りとなって復元されたのだ。

余裕の表れからか、自信満々の意地悪い笑みとおちゃらけた態度は一向に崩れない。
二本の傘を両手剣よろしく逆手に持ち換え、体勢を低くとって構える。
傘術という武芸があることは知っていたが、時代劇や映画、テレビで見たポーズをそのまま真似ているだけで、武術の心得は何も無かった。
しかしそれを十分補う程、手に持っている“強く生まれ変わった”傘の強度は岩石を弾くほど凄まじいものだ。
先程とは打って変わって、今度は阿部が傘を振り下ろしてきた。

ガンッ
という、太刀音とはほど遠い、重い物同士がぶつかる音が響いた。
阿部の傘を松田が砂剣で受け止めている鍔迫り合いに近い状態で、お互いに止まっている。
「佐久間さんを泣かした罪は、重いよ?」
阿部が顔を近づけ、低い声で小さく言った。顔を見ると明らかに目が笑っていない。
体重を掛けて踏み込むと、松田が僅かに片膝を着いた。
「くっ…!」
腕力では敵わないと悟った松田が念じると、地面から浮き出た尖った岩が空中に出現し、ミサイルの要領で阿部に発射される。
運動神経の良さが幸いし、槍のように降ってくる岩を後ろに飛び退きながら避けるが。
「あ!」
そのうちの一つが、身動きの取れない佐久間に向かって飛んでいったのを目の端で捉えた。



351 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:14:39
能力を使おうにも腕を伸ばせない状態にある佐久間はどうすることも出来ない。
すぐさま阿部が佐久間を庇うように立ちふさがり、片方の手に持った傘をパッと開き盾代わりにする。
鮮やかな水玉模様が殺伐とした敷地によく映えていた。
ゴン、ゴン、ゴン、と岩は立て続けにぶつかっては砕け散って地面に落ちた。
「怪我はない?」
パチンと傘を閉じると、いつもの芝居がかった口調と仕草で、子どもに話しかけるときのようにゆっくりと言った。
馬鹿にされた、と思ったのか、恥ずかしいやら情けないやらの感情が入り乱れ、佐久間は顔が熱くなるのを感じて顔を下げた。

「あべさん、何でここが…」
動揺を隠しきれず絞り出すような松田の声に阿部が振り向いた。
「今さあ…岩、本気でぶつけるつもりだったろ、さっくんに」
ふざけんなよ、と睨みを利かせる。
「誰にこの場所を聞いたんですか?」
「…教えてやってもいいよ。でも、俺に勝てるかな?」
鉄のような強度と破壊力を備えた傘を、宣戦布告の意味を兼ねて突き出す。
教えて欲しければまず俺を倒すがいい!というやつか。
本当にどこまでが冗談でどこからが本気なんだろう、と松田は顔を顰める。
兎に角。阿部が佐久間を助けた事で二人の距離は再び広がった。
遠距離の戦闘になれば地面の土を操作する事が出来る。
ゆっくり念じながらサンドストーンを光らせた。




352 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:16:51


能力の規模が違いすぎる。さすがに、人一人守りながら短い傘二本でどうにかなる筈もなく。
傘の柄に岩肌が引っ掛かり、思わず手を離すと、傘は高く舞上げられ倉庫の屋根の上に。
阿部は擦り剥いた肘をさすりながら苦笑いを浮かべて言った。

「あ〜ぁ、やられちゃった。何なん?今日やけに張り切ってんじゃん」
「教えてくれるっていうのは」
「そんな約束忘れた〜」

残った一本の傘で何気なく肩をトントンと叩いた後、「おりゃっ」と一声。
佐久間を押さえつけていた石矢を叩き割り、悪足掻きで最後の傘を槍投げのように松田に投げつけた。
石飛礫を飛ばすと相打ちになって、回りながら落ちていった傘はストン、と柔らかい泥の地面に刺さった。
それに気をとられている間に、阿部は佐久間の腕を引いて、スタコラと敷地の奥へと入っていった。


「―――そうか、あいつだな…」
頭の中に何も知ずに(と言っても自分が何も話していないだけなのだが)えへへ、と笑う呑気な相方の顔が思い浮かべられ、松田は苦虫を噛みしめたような顔つきで舌打ちをした。
憎むとかそういうのでは無いが、ただ妙に腹立たしかった。

とにかく、この敷地内から出るには自分の横を素通っていくしか道はない。
松田は追いかけることもせず、ただ壁に背を預けたまま二人が出てくるのを待つことにした。

―――『ぶつけるつもりだったろ。さっくんに』
阿部の言葉が脳内で蘇る。もちろん殺してやろうとまでは思っていない。
仕方ないんだ。阿部の弱点である佐久間を狙わない限りきっと負けていたから。
命令を失敗するわけにはいかないから。
あの時は仕方なかったんだ…。
「ははは…はぁ…」
小学生のような言い訳じみた自己弁護に苦笑した。


353 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:19:05


「追いかけてこない…か。余裕のつもりか?」
小さな物置小屋の錆び付いた引き戸を、足で蹴り上げながら無理矢理こじ開ける。
カビの臭いが酷く一歩踏み入るだけで埃が立ち上がる。
一応椅子が置いてあったがとてもその上に腰掛ける気にもなれず。
なるべく壁や柱に身体が触れないように佐久間はそろそろと身体を丸め込むようにしゃがみ込む。

「川の泥水はどれだけ浴びても平気なのにね」
そんな彼を見て阿部が呆れた溜息を吐きつつ、小屋奥のガラクタを物色する。

「これ使えそうじゃない?」
ガラクタの山――阿部の石からすれば宝の山だろうか。
そこから見つけてきたオモチャの水鉄砲を二つ差し出す。
引き金のポンプが外れていて、ヒビが入っている姿から、いかに安物のオモチャだったかが伺える。
佐久間は首を傾げながらもそれを受け取り、片方ずつ両手でつまみ上げて地面にトン、と置き、小刻みに揺らす。

「えーと…“どうもー二丁拳銃でーす”…?なんちゃってアハハー」
「こら」
違うだろ、と水鉄砲を取り上げる。
そして、石の力で水鉄砲を復元させる。
今度はきっとポンプを引くと水がジェット噴射の如く飛び出すんだろう。
気絶する程までは行かないが、小さな石くらいなら水圧で弾き飛ばせられるし、身体に当てればそれなりに痛い。
行こう、と早々に阿部が立ち上がる。
どのみち松田と戦わなければ此処から出られない。




354 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:22:15

「完っ璧、足手まといだ、俺。邪魔?」
と、佐久間が言った。阿部は振り返らず答える。
「そうだね。超が付く邪魔だよ。……それでも俺は、さっくんを見捨てない」
急に向けられたその真剣な目に、佐久間は顔を強ばらせる。
何も返すことが出来なかった。

暫く間を置いて阿部はにやりと笑った。
「だぁってさ、あんなでかい石が頭にゴーンていったら、さっくん今以上にパーになっちゃう」
「また馬鹿にして〜…」
心配して損した。と、頭の上で人差し指をくるくる回している阿部の腕を掴む。
阿部はそんな雰囲気を誤魔化すように口調を一変させ笑い飛ばすと、「怖くても泣かないでよ?」と佐久間の背中を叩き、小屋から出た。
後に続いて立ち上がり、その背中に向けて佐久間は叫ぶ。

「―――別に!怖くなんかありませんよ。別に!別にっ!」




355 : ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:27:21

あべこうじ
石…ブルークォーツ(コミュニケーションの活性化)
能力…使えなくなった物や壊れた物を、前よりも強くさせて復活させる。
   例えば、空の炭酸飲料だと、蓋を開ける前まで復元できるが、ついでに炭酸の力も強くなっている。
   ちなみに気絶した人間も復活させる事も出来るが、ただ起こすだけ。(僅かに体力回復)
条件…「まだ出来るでしょ?」などの無理強い系の言葉がキーワード。
    また、対象の物が“使えなくなった物”なので、少しでも動ける物には使えない。


今日はここまで。最近スランプ気味だったが何とか書けた。
あと二、三話で終わると思います。

356 :名無しさん:2006/03/13(月) 00:29:33
あべさく編待ってました!!!
禿しくGJ!!

357 :名無しさん:2006/03/13(月) 01:35:05
元々不思議な力持ってる

358 :名無しさん:2006/03/13(月) 15:17:06
乙!すっごく面白いです。
あべさんカコイイ!

359 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 19:57:26
97年末のバカルディの話落としにきました。
前に落とした「バカルディ・ホワイトラム」の数日後の設定。
バカルディからさまぁ〜ずにいたる3部作の2つめとして書いてます。


360 :バカルディ・151プルーフ<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 19:59:00
[バカルディ・151プルーフ<1>(side:三村)]


あの襲撃から数日後。
久々に入った早朝ロケのあと、自宅に帰って愕然とした。

おいてあった靴が踏みつけられ、不自然に散らばった玄関。
明らかに土足で荒らされた跡のある床。

こんな金のねぇ家に泥棒か?
背筋を冷たいものが駆け上がる。
まず浮かんだのは妻と娘の顔。

…そうだ、落ち着け。
今日彼女は、幼い娘をつれて自分の実家に行っていたはず。
母の得意料理を習ってくると笑っていた。
大丈夫、二人は大丈夫。


少しだけ安心して、人の気配がないことを確認し、家の中へ踏み込んだ。
侵入者の靴跡は居間に続く扉の前で止まっている。
はやる気持ちを抑えつつ、半開きで放置されていた扉を開けはなつ。
やはり居間には誰もおらず、ただフローリングの床にところどころ土がついている。
まわりを見回して、テーブルの上に置いてある紙切れに気付く。それを乱暴に引っ掴んだ。


「…『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡してください』…?!」


思わず声をあげて読んでしまった文面は石に関するもので、俺はやっと事態を理解した。


361 :バカルディ・151プルーフ<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 20:00:49
[バカルディ・151プルーフ<2>(side:三村)]


これは明らかに黒の連中の仕業だ。

けど、ブラックスターはいいとして、もう一つのレインボークォーツって何だ。
もしかしてあれか、大竹がこないだ拾った石の名前か?

それにしても何で俺のところに奴らは来たんだ?
『大竹さんへ』って何だそりゃ。俺は三村だ。
しかもブラックスターがあいつのだってことは知ってるはずなのに。
…っていうか俺のフローライトに用はねえってか。それはそれで腹立つな何か。

いやそれどころじゃない、大竹だ。
俺のとこに何もないってわかったら大竹が危ないじゃねえか!


自分のものでない石のことで家に押し入られた理不尽さに一瞬苛立った。
が、石がこれに絡んでいるのだとすればそれよりも何よりも相方の身が心配だ。
こうしている間に、あいつが黒の奴らに襲われていたりしたら…!

駅で別れた大竹は早朝ロケにかなり疲れた様子だった。
まだ昼過ぎなのに帰って寝るなどと言っていたから、無事なら自宅にいるはず。
ひどく震える指を電話器のボタンに伸ばす。
そらで言えるほどかけ慣れた番号なのに、焦りと不安でなかなかうまく押せなかった。




362 :バカルディ・151プルーフ<2> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 20:01:27

よく考えてみれば石を持っている相方はなおさら危ない立場だ。
石をめぐって戦闘にでもなっていたら大変なことになる。
ブラックスターは防御用だし、レインボークォーツはあの戦闘後、大竹が回復に使おうと試して失敗していた。
持ち出した虫入り琥珀は攻撃用だが、仕事が減った今使うにはリスクが大きすぎる。

どうか無事でいてくれと祈りながら、通話口に親友で相方の男が立つのを待つ。
ほどなくして受話器からは緊張感のない大竹の声が聞こえた。


「もしも〜し」
「…タケ!」
「あ?何だ、お前か。どうしたよ?」
「タケちゃん、いやアレだ、大竹お前、お前無事だな?」
「…無事だけどよ、おい三村、何があった?」
「あの、アレだ、その、黒だよ!」
「落ち着けバカ、アレとか黒とか意味わかんねぇだろ、ツッコミじゃねんだからよ」
「家に紙があって、お前の石がアレだ、いやお前のだけじゃね〜けどあの、アレ…」


…くそ、何も言葉出てこねぇ…。


363 :バカルディ・151プルーフ<3> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 20:03:26
[バカルディ・151プルーフ<3>(side:大竹)]


「…あーもうわかった、今からお前んち行くから大人しく待っとけ、な」


要領を得ない三村の言葉から辛うじて「三村の家」「自分の石」「黒いユニット」というキーワードをつかみ、
鞄にしまいこんでいた三つの石を持って家を出る。

あの三村という男は昔から、興奮すると混乱して話ができなくなるのだ。
いい加減付き合いも長いが、そういう所はまるで変わらない。
全く困ったもんだ、と溜息をつきつつ、三村家へと道を急ぐ。
電車代も馬鹿にならないし、黒の連中に交通費でも支給してもらいたいもんだ。
小さく一人ごちて、最寄りの駅の券売機のボタンを押す。


電車を降りて数分後、マンションにつくと、わざわざ下まで降りて入口で待つ三村の姿があった。


「三村」
「あー大竹、こっちこっち!」




364 :バカルディ・151プルーフ<3> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 20:05:00

声をかけると相方は早くついて来いと目でうながしてくる。
それに誘われるように小走りであとを追って、辿りついた三村家の玄関と床はひどい有様だった。


「…なんだこりゃ」


呟いた後絶句した俺に三村は言う。


「帰ってきたらこうなってて…居間にこれが」


手渡された走り書きの置き手紙に目を見開く。

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』 
…おいおいおいおい。探偵の真似事でもしろってか、コンチクショウ。


365 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 20:06:06
一端ここまで。今夜もう一度落としにきます。

366 :バカルディ・151プルーフ<4> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:33:52
[バカルディ・151プルーフ<4>(side:大竹)]


…とにかくだ、どう考えてもおかしい。

何よりまず、三村の家に置かれたこの手紙が『大竹さんへ』で始まってることがおかしい。
もしこれが『三村さんへ』の書き間違いだとしたら、今度は石の選択がおかしい。

黒の奴らはブラックスターが俺の石だと確実に知っている。
レインボークォーツがこの間拾った好未の石のことだとすれば、あれを俺が持っていることも知っている。
意識があった好未は、俺があれを拾ったのをしっかり見ていたはずだ。

だが、この状況には明らかにもっと根本的なおかしさがある。

大体、家を襲う事自体がおかしいんだ。
だってそうだろう。普通みんな、石は肌身離さず持ってる。
それなのに何で三村の家にあがり込まなきゃならないんだ。直接本人を襲えばいいのに。


…本人を、襲えばいいのに?


367 :バカルディ・151プルーフ<4> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:35:16


「おい、三村…」
「うん?」
「確か今日は嫁さんと子供、お前の実家に行ってるってロケん時話してたよな」
「ああ、そうだけど…」


…なんてこった。

最悪の事態に気づいてしまって頭を抱える。
どうしたらいいんだ、この状況。


「なあ、どーしたんだよ、大竹…?」


眉をハの字にした戸惑い顔の相方がこちらをのぞき込んできた。
…相変わらずよく見るとブタみてぇなツラしてんな。
この間の戦闘の時も使ったフレーズが頭に浮かぶ。
口に出したらまた、すぐさま三村お得意のツッコミが入りそうだ。


「あー…、まあアレだ、とりあえず床の土、拭いとくか?」


わりぃ、今はまだ、俺が完全に整理するための時間が必要だ。


368 :バカルディ・151プルーフ<5> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:36:43
[バカルディ・151プルーフ<5>(side:三村)]


…床の土拭いとくかって。

まあそりゃ拭いとくけどよ。
嫁さん帰ってくる前に綺麗にしとかないと、警察とか呼ばれたら困るし。
でも大竹お前、そういうんじゃないだろ? 何でそんな辛そうなツラすんだよ。

雑巾をとりだして水に浸しながら、もう一度相方に問いかけてみる。


「なあ、アレか、お前何かわかったとか?」
「…」
「おい、大竹…」
「とにかくコレ拭き終わるまで待っとけよ」
「…」
「めんどくせぇけど、頭ん中まとめってから、今」


少し苦い笑顔で大竹は雑巾を受けとり、床を拭きだす。
こいつがそう言うなら、俺は待つだけだ。

黙ってフローリングに散った土を拭きとっていく。
自分が被害者なのに、犯人の残した証拠を消しているように感じて、少し気が滅入った。
それでも自分の家族の平穏のためには、侵入者の形跡を残しておくわけにはいかないのだ。



369 :バカルディ・151プルーフ<5> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:37:30

守るべき大切なものを持って闘いに身を投じるのは結構辛い。
それでもこの世界からトンズラする気がないなら、やるしかない。
キュッと唇をひき結んで作った真剣な顔は多分、大竹には見えていないだろう。

汚れた床をこする手に、知らず知らず力が入る。
おろしてからそう日も経っていない雑巾はまだ白かったが、土がそれを黒く染めていった。

玄関まで全て綺麗にして、洗った雑巾を干す。
すえた匂いの移ってしまった手をゆすぎながら、大竹が話すのを待った。


「なあ三村」


俺に何かを伝えるための言葉が、大竹の口からやっと出る。
無言で続きを促すと、予想外の言葉が耳に飛び込んできて、唖然とした。


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」


370 :バカルディ・151プルーフ<6> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:38:33
[バカルディ・151プルーフ<6>(side:大竹)]


掃除ってのは実のところ、単純作業だ。

安いフローリングの木目を眼で追って、土を拭きとる。
その作業を無心にくり返しながら頭の中を片付けていく。

…三村にきちんと説明できるように、整理していかねぇと。

俺の言葉を、黙って三村は待っている。
だから、めんどうだと思っても考えることを放棄したりはしない。
絡まった糸をほどくように、ひとつひとつ状況を確認して答えを出そうとする。

まず、何よりも誰よりも、自分自身を落ち着かせる必要がある。
冷静に、冷静に。三村にできないことは、イコールで俺がやるしかねえことだ。


誰もいない三村家に、土足で上がり込んで置き手紙を残した連中。

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』

この一見不自然に見える文面は、一言で言うなら「脅し」だ。
それも、見事に俺たちの弱点を突いた、これ以上ない方法の。

三村自身はまだ気づいていない。というよりこれでは気づけないだろう。
それでいいんだ。三村に気づかせることが目的じゃない。奴らの本当の目的は俺に気づかせること。
そう、俺は気づいてしまった。今、本当に危ないのは三村じゃない。俺でもない。


371 :バカルディ・151プルーフ<6> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:39:46

…三村の家族、だ。


ロケのとき、三村は皆の前で家族の話をした。
今日彼女たちが家をあけていると知っている人物は、あのロケに参加したほぼ全員だ。
その中に一人や二人、黒の奴がまぎれてたっておかしくはない。

誰もいないことを知っていて、わざと三村家に入り込んだのは、デモンストレーション。
「お前の家に入り込むのなんて雑作もない」、そう伝えるための。
最初から家族のいるときに押し入ったらそれこそ警察沙汰だ。
「でもいざとなったら自分たちにはそれができる」、そうはっきり脅しにかかってきている。

『三村さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こう書けばわかりやすかったのにそうしなかったのは、目的の石が三村のものでなかったから。

『三村さんへ 大竹さんの石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こうしなかったってことは、こいつの性格をよくわかってる奴が黒にいるってことだ。



372 :バカルディ・151プルーフ<6> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:40:21

三村の性格からいって、どう考えても自分の家族のために俺の石を黒に渡せなんて言いだせるはずがない。
かといってそのままにもできないから、俺に石を自分が預かろうとか言うだけ言ってみるんだろう。
多分三村のことだから適当な理由なんて思いつかなくて、俺は応じない。

そのうちこいつがなんでそんなことを言いだしたのかわかれば、俺は今の状況と同じ選択を迫られる。
でもそれじゃ余計な時間がかかってしまう。てっとり早いやり方が他にあるのにそんなことする必要はない。

こうやって三村の家に押し入っておいて、俺宛に手紙を書けば話はもっと簡単だ。
『大竹さんへ 石を渡して下さい』
これはそのまま、
『大竹さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の相方の家族を襲うだけの力があります』
っていう意味だとしか思えない。


「なあ三村」


…最悪だ。何もかもこれを書いたやつの思惑通り。


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」


気づいてしまった以上、俺はこの脅しを決して無視できないんだから。


373 :バカルディ・151プルーフ<7> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:42:22
[バカルディ・151プルーフ<7>(side:三村)]


「な…に言ってんだよ、お前…」


『黒に入った方がいいかもしれない』?
何でお前がそんなこと言うんだよ。わけわかんねぇよ。
っていうかホント意味わかんねえ、何で?何でだよ!

俺の頭はすっかりパニックを起こし、言葉も何も出てこなくなった。
そんな姿を動じることなく眺めながら、静かに大竹は言う。


「白にいるより、安全かもしれねぇ、多分」
「ふざけんなよ! 俺は絶対嫌だぞ、こんなことする奴ら!」
「じゃあコレやった奴探して復讐でもすっか?」
「いや、そこまですんのは…ああでも目の前に現れたらやるけど、でも…!」


大竹の言葉に一瞬激さずにはいられなかった。
しかし、「復讐」などという言葉は自分の性にあうものではなくて。
かといって大竹の言う通り、すんなり黒に鞍替えするというのも腹に据えかねる。
自分の気持ちを伝える言葉を見つけることができずに、ただ悲痛な思いで大竹を見た。
そんな俺を知ってか知らずか、大竹は諭すように言葉を続ける。



374 :バカルディ・151プルーフ<7> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:42:56


「あのな三村、例えば犯人が目の前に現れて、倒したとすんだろ」
「…おう」
「それで終わりじゃねーんだぞ、コレ」
「え?」
「この先ずっとこーいうの、いや、もっとひでぇこと続くかもわかんねえぞ、白にいる限り」
「…」
「嫁さんとか、ちっちぇーのとか、嫌な目にあうかもしんねえ」
「それは…!」
「お前がそれ、嫌だったら、黒入るしかねぇだろ」


大竹の滅多に見られない真摯な表情に、何も言えなくなる。
こいつが黒に入ることを勧めた理由が、俺の家族にあったなんて。

…愛しい妻と娘。この先彼女たちを危険にさらすような真似は、とても自分にはできない。

だが、本当にそれでいいのだろうか。
この男を、自分の家族のために黒に屈させていいのか。
自分の都合だけで、大竹の進む道を勝手に曲げてしまっていいのか。
何か、大竹に言うべき正しい言葉を探そうと俺は必死になる。
その努力は実を結ぶことなく、何一つ言えないままうつむくしかなかった。


375 :バカルディ・151プルーフ<7> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:43:46

視界に入る足先を見つめていると、大竹はぽつりとこぼす。


「俺は嫌だぞ、お前がそーいうめんどくせぇことになんの」


…バッカ、大竹。そんなくっせぇ台詞、お前アレだろ、言う奴じゃねぇだろ。

心の中でそんなツッコミを入れながら、相方の方をちろりと見てみれば。
言っておいて恥ずかしかったのか、大竹はこちらを見ずにあらぬ方向を向いている。
そんな大竹の姿に少し笑いながらも、呟いた言葉には苦みが走った。


「俺がめんどくせぇ真似、お前にさせちまうじゃねーかよ…」
「…うるっせ!うるっせお前!『させちまう』っとか、言ってんじゃ、ねぇ!言ってんじゃ、ねぇ!」


重くなりそうな俺の言葉を無理矢理切り落とすように、大竹はふざけて言う。


「…二度言うのかよ!しつっこい!」


それにいつものツッコミを入れながら、三村は相方のひねくれ気味の優しさに心から感謝した。



376 :バカルディ・151プルーフ<8> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:45:30
[バカルディ・151プルーフ<8>(side:大竹)]


十字の光が入った黒い石。透明で虹色の光がちらつく石。
ポケットからとりだしてテーブルの上ではじく。


「『ブラックスターとレインボークォーツを渡せ』、ね」


居間で相方と顔を突き合わせつつ石を眺めてみる。
確かにこの2つがあれば、使い方と相性次第でそれなりに誰でも身を守れるんだろう。
まあ、俺にはレインボークォーツは使えないんだが。

…渡せ、って言われておとなしく渡すつもりはなかったんだけどよ。

ちょっと心の中で呟いてみる。でも三村にそんなことは言わない。
結構真に受けるところのある相方に、よけいな心配をさせる必要もないだろう。
要は優先順位の問題だ。今は俺のプライドより三村の家族の方が重い。



377 :バカルディ・151プルーフ<8> ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:46:12


「でもあれだろ、俺らが黒に入るんならお前の石、わざわざ渡すことねぇだろ」
「まあな、ブラックスターは現状維持だろうけどよ」
「レインボークォーツは黒の上の奴に渡すとかか?」
「かもな、コレ使えたら結構強力だし、持っていきてぇだろ」
「けど使うと記憶消えるんだよなあ」
「あ、そうか、お前こないだコレ試したもんな」
「おう、お前はダメだったけどな」
「ああ、ダメだったなー…つうかアレだな、琥珀はいらねぇんだなアイツら」
「リスキーすぎんだろ、アレは…もう事務所に返してこいよマジで」


そんなふうにぽつりぽつりと会話を続けていると、玄関のチャイムが鳴る。
嫁さんか? と三村に視線で尋ねると、軽く首を傾げて出ていった。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』
「…誰だ、お前」


玄関から聞こえてきたやりとりに嫌な予感がして顔を出す。
三村が剣呑な表情で扉の向こうと会話していた。


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