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もし芸人に不思議な力があったら3

1 :名無しさん:2005/07/27(水) 03:04:50
現まとめサイト
ttp://geininstone.nobody.jp/


・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってます
・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。

2 :名無しさん:2005/07/27(水) 03:08:24
前スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1108031171/l50

以下はスルーしても構わない設定です。
・一度封印された石でも本人の(悪意の無い)強い意志があれば能力復活可能。
 暴走する「汚れた石」は黒っぽい色になっていて、拾った持ち主の悪意を増幅する。
 封印されると元の色に戻って(「汚れ」が消えて)使っても暴走しなくなる。
 どっかに石を汚れさせる本体があって、最終目標はそこ。

・石の中でも、特に価値の高い(宿る力が高い)輝石には、魂が宿っている
 (ルビーやサファイヤ、ダイヤモンド、エメラルドなど)
 それは、古くは戦前からお笑いの歴史を築いてきた去る芸人達の魂の欠片が集まって作られた
 かりそめの魂であり、石の暴走をなくす為にお笑い芸人達を導く。

・石の力は、かつてない程に高まった芸人達の笑いへの追求、情熱が生み出したもの。
 持ち主にしか使えず、持ち主と一生を共にする(子孫まで受け継がれる事はない)。

・石の暴走を食い止め、封印しようとする芸人たちを「白いユニット」と呼ぶ。
 逆に、奇妙な黒い欠片に操られて暴走している芸人たちを「黒いユニット」と呼ぶ。
 (黒い欠片が破壊されると正気に戻る。操られている時の記憶はなし。)

3 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/27(水) 03:14:34
すいません、自分の投稿で容量をオーバーしてしまいました。
新スレが立ったので、前スレに投下した分を再投下します。
みなさんにご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。

4 :名無しさん:2005/07/27(水) 03:16:53
第二章〜ゆきぐもにおおわれたそら〜

楽屋のドアを開けると、相方は数十分前の自分のようにぼんやりした様子で窓の外を眺めているようだった。
どうやら雑誌を読み終わって時間を持て余しているらしい。
「ただいま」
「あ、しずちゃんおかえり〜」
出て行く時とは違い、山里は口元に笑みを浮かべて振り向いた。
(――あぁ、またや)
微かな違和感。ちくりと刺さる、小さな棘のような。
「随分長かったね〜。…なんかあったの?」
無意識に、首元に手をやる。
「……ううん、何も」
先程の出来事を話そうかどうか一瞬迷ったあと、そう答えて楽屋に足を踏み入れた。なぜか、話しづらいと感じたのだ。
返答までに少し不自然な間が出来てしまったが、山里は大して気にも留めなかったらしい。
椅子に腰を下ろすと、山崎は隣に座る相方に気付かれないよう、こっそりと右膝に手を当てた。ズボンに隠れていて見えないが、先程階段から滑り落ちた時に強打した膝には、湿布が貼られている。
足を引き摺ってしまう程の重傷ではないが、何しろ打撲傷というのは地味でありながらやたらと痛い。
だが今日の仕事はこれで終わりのはずだ。我慢出来ない程の怪我ではないのだから、泣き言ばかりも言っていられない。
壁掛け時計を見てあと少しでスタッフが呼びに来る時間である事を確認し、山崎はそっと小さな溜息をついた。



「どぉも〜南海キャンディーズで〜す!」
「………ばぁん」
いつもと変わらない、変わるはずのない時間。
だが――分厚い雪雲は密やかに忍び寄り、いつの間にか青い空を覆い尽くす。

5 :名無しさん:2005/07/27(水) 03:17:57


「……あれ?」
収録が終わり、スタジオから出ようと扉の前までやってきた山崎は、我に返ったようにふと立ち止まった。
先程まで隣に居たはずの相方の姿が見えない。
慌てて振り返ってみると、数メートル先で何やらスタッフと話している山里の姿。
石の副作用でぼんやりしていたとはいえ、あれだけ存在感のある相方が離れていくのを見落とした事に思わず苦笑しながら、話し込む二人の様子を目を凝らして見てみる。
「……あ」
山里と話しているスタッフの顔には、見覚えがあった。
間違いない、自分が階段から落ちた時に駆け寄ってきた、あのスタッフだ。
スタッフの話を聞いている山里の表情から話の内容に何となく想像がつき、山崎は顔を曇らせる。
「山ちゃん」
離れた相方の耳に届くよう少し大きな声で名前を呼ぶと、山里はこちらを振り返った。
見慣れた、やけに目立つ立ち姿。
だが――次の瞬間弾けるように心に浮かんだのは、あの微かな違和感だった。
深く深く刺さる、小さな棘。
「ごめんごめん、ちょっと話し込んじゃって」
話を打ち切って駆け寄ってきた山里が、不思議そうな視線を向けてくる。
「……どうかした?」
「何でもないよ……行こか」
ふとした瞬間に感じる微かな違和感が、日に日に回数を増やしていく。

――許されないのだろうか、もう少しこのままで居る事は。例え逃げだとしても、留まり続ける事は。

6 :名無しさん:2005/07/27(水) 03:19:25


「――あのさ、さっき収録のあとスタッフに聞いたんだけど」
そう、躊躇いがちに山里が切り出したのは、それぞれ私服に着替え帰り支度に取り掛かった時だった。
「何?」
「……階段から突き落とされたってホント?」
先程あのスタッフと話し込んでいたのはその話だったのだろう、ある程度予想していた言葉ではあったが、一瞬返答に詰まる。
この違和感の正体は一体何なのだろう。
「………うん」
「大丈夫だったの? 怪我とかは?」
「ちょっと膝打っただけ。……大体、それなりの怪我してたらあんたが真っ先に気付くやろ?」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に呆れたような溜息をついて答えると、一瞬の沈黙のあと、そっか、とポツリと呟く声がした。
「よかったぁ、大した事なくて。スタッフから話聞かされた時なんか、もう俺動揺しちゃってさ〜」
俯き、机の上に散らばった荷物を鞄に仕舞いながら言うその声音は、いつもと変わらない明るいものだ。
だが、前髪の影と眼鏡のレンズの反射に邪魔されて、その表情は酷く読みにくい。
視線を戻した山崎は、違和感の正体について考えを廻らせながら、机の上に転がったボールペンを取ろうと手を伸ばす。
(あ――――)
その手が、凍り付いたように止まった。
一瞬、頭が真っ白になる。
悲鳴になり損なった掠れた吐息が、無意識に口から零れ落ちた。

――すとん、と何かが落ちてきたかのように。……呆れる程簡単に、浮かんできた答え。

なぜか、思い浮かんだその答えが間違っている可能性は全く思い付かなかった。
暖房が充分効いているはずなのに、身体が足元からすっと冷えていくような気がする。
両手に余る程の鉛を呑まされたらこうなるんじゃないか、と理由もなく思う。
染み出す重い毒に、じわじわと蝕まれていくような。

「……山ちゃん」

―― 一度気付いてしまったら、もう目を逸らす事など出来ない。逸らしてはいけない、絶対に。

7 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/27(水) 03:21:14
「ん、何?」
何気なくこちらを向いた山里と、真正面から視線がぶつかる。
いつもと同じ、胡散臭い程に陽気な笑顔。
心に突き刺さった小さな棘に、手が触れた気がした。

「――何であたしが『突き落とされた』って知っとるん?」





すいません、途中トリップ付け忘れました……orz
本当にすいませんでした。他の書き手さん達の作品ををお待ちしてます。

8 :名無しさん:2005/07/27(水) 07:06:45
投下&スレ立て乙です(´∀`)


9 :名無しさん:2005/07/27(水) 16:51:20
乙です。

10 :名無しさん:2005/07/27(水) 23:18:09
全体的に乙です。
好きな話なので本スレに載ってすごくうれしいです!
頑張ってください

11 :名無しさん:2005/07/27(水) 23:52:26
>>1
スレ立て乙!!
>>3-7
投下乙!GJ!

12 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/28(木) 01:50:22
第三章〜ふきあれるふぶき〜



あの時――山崎が階段から落ちたところをただ一人目撃したスタッフは、山崎が誰かに背中を押されてバランスを崩したその瞬間は見ていない。
だから、彼女が「誰かに突き落とされた」事を知っているのは、本人と――

山崎の一言で自分の犯した失態を悟ったのだろう、山里の顔から、笑みが消えた。

なぜ気付かなかったのだろう。
今思い返してみれば、階段から突き落とされたあと、楽屋に戻ってきた時、相方の姿がやけに目立って――周りから浮いているように見えはしなかっただろうか。
相方の能力も、その代償も、誰より理解していたはずなのに。
「動揺してる、ってのはあながち嘘でもないみたいやね? こんな単純なミス……」
次の瞬間頭に浮かんだ余りに場違いな言葉に、思わず苦笑が漏れそうになる。
だが、一度浮かんだ言葉は打ち消すより先に無意識に口から零れていた。
「……あんたらしく、ない」
本当に単純なミスだ。あのスタッフが言ったであろう言葉通り、「階段から落ちたんだって?」と問えば済む話だったのだから。
スタッフから「相方が階段から落ちた」と聞かされて一切心配しないのもあとで疑われると思ったのだろうが――思わず口を滑らせてしまったのは、相方を突き落とした事で少なからず動揺していたという事だろう。
「……俺らしくない、か……」
いつもより、少しトーンの低い声。
背筋を這い上がってきた悪寒に唆されるように、思わず一歩後退る。
「かもしんないね」
その口元には微かな苦笑が浮かんでいて、まるで感情が込もっていない無表情、というわけではない。
ただ――その表情の質は、【黒い瞳のイタリア人】を自称する普段の彼から、余りに懸け離れているように思えた。
例え笑っている時でもその目が笑っていないように見える事には、慣れていたつもりだったのだが――今は、目の前に居るこの男が心底怖い。

13 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/28(木) 01:55:01
「………どうして」
その言葉を口にした瞬間、一瞬だけ山里の口元に浮かんだ笑みが深まったような気がした。
浮かびかけたのは苦笑か、それとももしかしたら嘲笑だったのだろうか。
「……言っても多分分かんないと思うよ? ほら、俺嫌われちゃってるみたいだし」
少しおどけた口調でポツリと呟く。まるで、笑い話だとでも言うように。
ふとその目に痛々しい程の諦念を見た気がして、思わず視線を逸らす。
「……答えになってないと思うんやけど」
「そうかな。でもさ、もうどうでもいいじゃない? 所詮言葉なんてその程度、っつったら色んな人に失礼かもしんないけど。どこまでいったって…伝わんない事の方が、多いような気がすんだよね」
どこまで行ったって――どこまで言ったって。少し芝居がかった言い回しで、そう告げる。
その声も時折関西のイントネーションが交じるところも普段と全く同じで、悲愴さを漂わせていたわけでも、声を荒げたわけでもなかったけれど。

――もしかしたらそれは、悲鳴だったのかもしれない。

「だから、さ。自分の気持ちに正直に行動する事にしてみたんだ。馬鹿だと思うかもしんないけど」
「……あぁ」
ホンマに阿呆や、と続ける事は出来なかった。
次の瞬間、一気に間合いを詰め迷わず鳩尾を狙ってきた山里の拳を、山崎は咄嗟に左手で受け止め弾いた。
それを見るや否や素早く後ろに下がった山里は、右手を軽く振りながら小さく感嘆の溜息を漏らす。
「――まさか左手一本であっさり止められるとは思わなかったな……ホントに凄いね、しずちゃんは」
「……ドMのあんたと違って殴られるのは好きやないからな」
普段より抑揚に乏しい山里の言葉にそう返しつつも、山崎にそれ程余裕があったわけではない。
咄嗟に拳を受け止めた左手は、衝撃に痺れている。
一般的な男女の力差を考えればそれ程不思議な事でもないのだが――誰かを殴る、という行為から余りに縁遠い相方を見てきたせいだろうか、その拳は予想外に重く感じる。
「……何がおかしい?」
不意に笑みを深め俯いた相方に眉を顰め、山崎は思わず低い声で問い掛ける。
「いや……しずちゃんに殴られたり突き飛ばされたりした事なら山程あるけど、殴る側に回った事ってなかったよなぁと思って」

14 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/28(木) 01:56:41
返ってきたのは、気が抜けるような台詞。だが、その目は相変わらず氷のように冷たく、山崎は喉に突っ掛かる言葉を無理矢理搾り出す。
「……気持ち悪い事、言わんといてくれる? ただでさえキモいんやから」
「ひっでぇ、そっちから訊いたんじゃん」
緊張感のない会話に聞こえるが、その場に流れる空気は、気弱な人間なら泣いて逃げ出したくなる程ピンと張り詰めていた。
じわり、と背中に冷や汗が滲む。
「大体、グーで殴るのは反則やろ……『女の子はシャボン玉』、なんやで?」
「……シャボン玉浮いてんの見てるとさ、割りたくなんない?」
ネタ中の台詞を使って揶揄するような言葉を投げ掛けた山崎に、山里は目の笑わない笑みを向けたまま答える。
そして、次の瞬間――きゅっ、と床を蹴る微かな音が聞こえたのと、すぐ目の前で振り被られた拳を認識したのが、ほぼ同時だった。
(っ!?)
尋常なスピードの踏み込みではない。何かの力によって、人という枷を緩めた者にしか出せないような速さだ。
普通の反応速度では防ぐ事が出来ないと無意識的に察知し、ほんの僅かに残った石の力を、理性が吹き飛ぶ境界線ギリギリまで解放する。
そして眼前に迫るその拳を防ごうと右手を上げた、その瞬間。
視界に映った【それ】を認識して、山崎の目が驚愕に見開かれた。
様々な感情がない交ぜになって混沌とした瞳が、間近に見える。
左目と違い、黒目の輪郭がぼんやり滲んだように見える、その右目。

――不吉な黒い影に虹彩を覆われた、闇色の瞳。

その右目に視線を奪われたのは、動きが止まったのは、コンマ一秒にも満たないほんの一瞬。
だが、その一瞬が決定的な隙となった。

そのあとの事を、山崎はよく覚えていない。
ただ――こめかみに、重い、衝撃。

15 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/28(木) 01:59:24
今日はここまでです。
したらばの方に投下していた分が終わったら、続きもこちらに投下させて
いただきます(したらばに投下するのも二度手間ですし)。

16 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/29(金) 00:11:26
第四章〜しろいゆめ、つきささるいたみ〜



――ざぁぁぁぁぁ……

一面の、白。舞い散る、真っ白な欠片。強い、風。
白い欠片――雪が視界を埋め尽くしている。
寒さは感じない。美しい白銀に埋め尽くされた景色を、山崎はただぼんやりと眺めていた。
微かな風の音以外に何も聞こえない。綺麗だけれど、どこか恐怖すら感じる白。

ふと、一色に埋め尽くされていた視界に白以外の色が映った。
すぐ近くに見える、黒い――人影。
(!)
ほんの一瞬、吹雪の隙間に見えたその人影が誰なのかすぐに思い当たり、山崎は思わず声を上げた――いや、上げようとした。
(っ!?)
声が、出ない。影の方へ駆け寄ろうとしても、そこに自分の足があるという感覚がない。
ようやく、山崎はそこに自分の身体というものが存在しない事に気付いた。
視界を埋め尽くす吹雪が、僅かに勢いを弱める。
視界が少し晴れ、人影の正体がはっきりと見えるようになった。
悪目立ちする真っ赤なフレームの眼鏡、緩やかなカーブを描いてきっちり切り揃えられたマッシュルームカット、『イタリアの伊達男』をイメージしているらしい、過剰に洒落たその格好――間違いなく見慣れた相方の姿だ。
足首の辺りまで雪に埋もれているにも関わらず、彼の周りだけはまるで凪のようにピタリと風が止んでいるようだった。その証拠に、服の裾が少しも靡いていない。
そしてその視線が、意識だけしか存在していないはずの山崎の方へ、しっかりと向いた。
眩しいものでも見るように僅かに目を細め、口を開いて何かを言い掛けたあと――結局何も言わず山里は微かに苦笑を浮かべた。
全てを諦めた、痛い程に静かな笑み。

17 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/29(金) 00:12:11
『言っても多分分かんないと思うよ?』

不意に思い出したその言葉が、まるで託宣のように脳裏に響く。
再び、吹雪が強さを増した。全てが白に掻き消されていく。
待てと叫ぶ喉も、引き止める為に伸ばす腕も、駆け寄る足もない。
もう、叩き付けるように降る雪しか見えない。

――ざぁぁぁぁぁ……

こんな景色は知らない。見た事もない。
だから――
これは夢だ。
わるい、わるい、ゆめ――



「!…いっ……」
目を開けた途端飛び込んできた白い床を夢の続きと錯覚し、慌てて起き上がろうとした山崎は、襲ってきた頭の痛みに思わず低く呻いた。
床に倒れたままこめかみを左手で押さえ、歯を食い縛る。
じっと痛みを遣り過ごしていると、少しづつ、先程までの記憶が蘇ってきた。どうやら頭を殴り付けられて気を失っていたらしい。
頭の芯まで響くような鈍い痛みに耐えながら何とか上体を起こすと、楽屋に相方の姿はなかった。荷物もなくなっているから、先に帰ったのだろう。
チラリと時計に目を向けると、気を失っていたのはほんの二・三分だったようだ。
背後の壁に背中を預けた山崎は、軽く舌打ちした。
まだ立ち上がる事は出来ない。座り込んだまま、じっと痛みが引くのを待つしかなかった。
石を巡る争いの中多くの芸人がそうしているように、彼らも何かと理由を付けてはマネージャーと離れて行動している。あと数分程度ならここに座り込んでいても大丈夫だろう。
「……?」
ふと、手元に四つ折りされた紙切れが落ちているのに気付いて、拾い上げる。
綺麗に折り畳まれたそれは、掌程の大きさのメモだった。

18 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/29(金) 00:12:51
(あ……)
開いてみると、黒いボールペンで書かれた、余り綺麗とは言えない見慣れた字が並んでいる。
何を書こうか迷った様子が窺える小さな点のあと、たった一言。
『また明日』
そして、少し間を空けて小さな文字で書き足された言葉。
『P.S
明日の仕事が全部終わるまでに、心の準備ぐらいはしておいて。……殺されたくなかったらの話だけど。
手加減なんてしてあげないから』
何の乱れもなく、あくまでいつも通りに――殺意を告げる文字。

『ほら、俺嫌われちゃってるみたいだし』

不意に思い出したその言葉。
それに引き摺られるように、記憶の奥深くから、二ヶ月程前のあの日の場景が浮かび上がってくる。

『しずちゃん俺の事嫌いでしょ』

(――ぁんの阿呆!)
山崎は思わず手にしていたメモをぐしゃりと握り潰し、握り締めた拳ごと壁に叩き付けた。
鈍い音がして手が痺れたが、知った事ではない。
「好きではない」と「嫌い」が場合によっては同義語ではないという事ぐらい、それなりに頭の回転が速い山里ならすぐに分かっていたはずなのに。
(――偶然にしちゃ出来すぎやろ……)
山里の右目に見えた黒い影。あの日、ゴミが入った右目を頻りに気にしていた彼の姿。
点のように散らばっていた事実が、繋がって一本の線になる。
いっそ笑い出したくなる程の偶然だ。あのゴミさえなかったら。
いや、あのゴミが――黒い欠片でさえ、なかったら。

19 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/29(金) 00:15:41
『……まぁ、好きでない事だけは確かやな』

けれど、最終的に引金を引いたのは間違いなく自分の一言なのだ。
もう一度壁を殴ろうと振り上げた手が、力なく下ろされた。
(阿呆なのはあたしも一緒、か……)
あの答えにはそれ程深い意味があったわけではなくて。
ちょっとした意地悪。ちょっとした悪い冗談。
本気で哀しませるつもりなんてなかった。傷付ける、つもりなんて。
ネタ中では【硝子のハート】を自称する事もあったけれど、山崎の知る相方はその言葉から受けるイメージよりはもっとずっと強かだったから。
だから、いつも通り冗談半分に返した。山里もいつものように笑って済ますだろうと、笑って済ましたのだと、疑いもしなかった。
「……いったぁ……」
無意識に、ぽつんと呟く。
痛い。どこが痛いのかはよく分からないのだけれど、痛かった。
打撲した膝か、殴られたこめかみか、壁に叩き付けた手なのか、それとも――傷付けられた心、なのか。
握り締めた手に、強く力を込める。

女の自分より女々しいだとか、笑っていても目が笑ってないような気がするだとか、案外腹黒いだとか、嫌いなところなら山程あるし、特別に仲が良いわけでもない。
ただ――のんびりと二人で過ごす待ち時間に居心地の良さを感じていたのも、確かで。
(いったいなぁ、ほんまに……)
認めるもんか。絶対に認めてやるもんか。

20 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/29(金) 00:16:35
――本当は……裏切られた事に泣きたくなる程信頼してた、なんて。

そう思っている時点でもう認めてしまっているのだと、気付いていたけれど。
(……帰ろ)
まだ鈍く痛む頭を押さえて、ゆっくりと立ち上がる。
部屋の暖房は充分に効いていたが、心は凍えそうに寒かった。

――ざぁぁぁぁぁ……

夢の中で聞いた風の音が、耳の奥に蘇る。

――春は、まだ遠い。

21 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/29(金) 00:27:40
今日はここまでです。
一応したらば投下時の文からちょこちょこ書き直してたりしてます。
やっぱり予告なしに新スレに移行してしまったので人気がないですね……他の書き手さん達お待ちしてます。

22 :名無しさん:2005/07/29(金) 14:13:59
最高です!目のゴミが、欠片だったなんて思いもよりませんでした。
GJです!

23 :名無しさん:2005/07/29(金) 14:57:06
前スレ、このスレのURL貼るだけの容量残ってるのかな?
自分携帯だから出来ないけども……

24 :名無しさん:2005/07/29(金) 22:04:14
まあ、まとめサイトの方の現行スレが更新されてるから大丈夫じゃないかな

25 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/30(土) 01:43:36
第五章〜ひびわれたこころ〜



真冬の風は、服を着込んでいても染み入ってくるような気がする程に、冷たい。
赤信号の交差点で足を止め、山里はその風の冷たさに微かに身震いした。
深夜に近い時間だが、山里と同じように信号待ちをしている人間は決して少なくはない。
俯き、レンズに触れないよう気を付けながら、右目をそっと掌で覆う。
完全に黒い欠片に覆われたわけではないにも関わらず、その右目はもう何も映さなくなっていた。
なぜあの場所に黒い欠片の断片が落ちていたか――恐らくは、以前あの楽屋を使った芸人の中に『黒』の人間が居たのだろう。
急激に侵食してくる影に気付いたのがほんの二週間程前の事だった事を考えれば、目に入った小さな欠片は、自分が抱いた小さな負の感情を養分としながら少しづつ力を蓄えていったのだろうか。

空に映える真っ白な翼はいつだって余りに綺麗で、強く。
自分の弱さや汚さを思い知らされるような気がした。
余りに眩しくて、遠すぎて。届かない、追い付けない。

目に巣食った黒い欠片のせいでそう思ってしまったのか、それともその暗い感情が欠片を育ててしまったのか、それは分からないけれど。
負の感情を充分に吸い込んだ欠片は一気に育ち、視界――そして心――を覆い尽くした。

――美しい姿は醜く、笑い顔は泣き顔に映る、あべこべ鏡。

ふと思い出したその言葉。一瞬考えて、それが【雪の女王】に出てくる悪魔の作った鏡の事だと思い出す。
目に悪魔の作った鏡の破片が刺さってしまった少年・カイと、そのせいで人が変わり雪の女王に連れ去られてしまったカイを追う幼馴染の少女・ゲルダの物語。
小さい頃に見た、随分と懐かしい童話だ。
あの話の結末はどうだっただろう。確か、ハッピーエンドだったと思うのだが。
(……あんな威圧感のある【ゲルダ】に迎えに来てもらうのは流石に遠慮したいなぁ……)
そう無意識に考えを廻らせてからカイとゲルダに自分達を重ねている事に気付き、我ながらくだらない事を考えているな、と山里は心の中で苦笑した。
ただ――くだらない事と承知で例えるならば、この欠片は悪魔の鏡の破片と雪の女王、その両方の役割を持っているのだろう。
自分の心を変え、冷たい闇に引き寄せる負の力。

26 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/30(土) 01:44:39
目を覆っていた右手を下ろすと、その指先に一瞬小さな闇色の光が灯った。
今まで必死に抑え込んでいた力の奔流が、ほんの僅かに溢れ出る。
人を殺す事も容易に出来る、強力な破壊の力。
この黒い欠片というものの予想外の万能さには驚かされるが、その力を使いたくないと思う程度の良心はまだ残っている。
ただ、段々と自制が難しくなってきているのも事実だ。
もう隠し通すのも限界だった。その証拠に、今日は沸き上がる激情を完全に抑える事が出来ず、手加減なしで――しかも思い切り頭を狙って――殴り付けてしまったのだから。
気絶した彼女にとどめ止めを刺さなかったのが奇跡的にすら思える。
壊すのは、殺すのは、守る事よりも遥かに簡単だ。

――壊したい? それとも守りたい?

不意にそんな問いが脳裏に浮かんだが、一度目をきつく閉じて思考の外に追い出した。
考えたところで、まともな答えを出せそうにない。

何も気付くな、と思っていた。
早く気付いてくれ、とも。
壊したい、と。守りたい、と。
感情を持て余している聞き分けのない子供のようだと、心のどこかでは認めていて。
別のどこかでは、認める事を拒んでいた。
思わず口を滑らせたのも、山崎を気絶させながら止めを刺さなかったのも、まだ自分の心の中に迷いが残っているからだ。
思考は常に混沌と矛盾。あと少しで、境界線を踏み越えてしまいそうな。
そこを越えて衝動に身を任せてしまえばもう自分ではなくなると――そして、その方が余程楽だという事も――分かっていた。
一歩足を踏み出せば、あるいは一歩足を引けば、それで事足りる。

今青になっている歩行者用の信号が、点滅し始めた。もう少しでこちら側の信号が青になるだろう。
顔を上げてそれを確認した山里は、ふっと溜息をつき軽く右の拳を握り締めた。
手加減なしで殴り付けたせいだろう、骨は折れていないようだが、拳は赤くなりズキズキと痛んでいる。
だが、今の自分にはその痛みさえどこか遠かった。
冷たさに麻痺した指先で何かに触れた時のように、今は自分自身の感情が酷く曖昧にしか感じられない。
そして――そんな冷え切った心の中で一番はっきりと感じられるのは、ドロドロとした負の感情だ。
怒り、嫉妬、憎しみ――殺意。

27 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/30(土) 01:45:31
――だから、早く。……君を殺してしまう前に。

心の奥底で呟いた本音は余りにも小さく弱く、山里自身も気付かない。
明日には、もう手加減も出来なくなっているだろう。ふつふつと湧き上がってくる激しい殺意を抑えるので精一杯だ。
だから明日にはきっと、何かしらの決着が付く。例え、その結果境界線を踏み越える事になるとしても。
自動車用の信号が黄色から赤に変わるのを目を細めて見ながら、山里はズボンのポケットから出ている携帯電話のストラップに、手を触れた。
元々は白いハウライトを青く染めて作られる、トルコ石を模した石。
余りに鮮やかすぎる、偽りの青。
街の明かりを反射して微かに輝くそれを、指でいらう。――祈るように。あるいは、何かを探すように。
そして、山里は微かに唇の端を上げた。微かだけれど、作り笑いではない自然な笑み。

大丈夫。大丈夫。
まだ笑える。――まだ、嗤える。

口元に浮かんでいた笑みが、無意識のうちに嘲るように歪んでいく。
信号が、青に変わった。止まっていた人の流れが、再び動き出す。
再び心の闇に呑まれていく彼の姿が、雑踏に紛れて消えていった。



雪が降る。音もなく、深々と降り積もる。
全てを掻き消すように。全てを凍て付かせるように。
誰かの心に――雪が、降る。

28 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/30(土) 01:48:45
今日はここまで。

>>23
書こうとしたんですがやっぱり容量オーバーで書き込めませんでした。
したらばやまとめサイトの誘導でなんとかなるといいんですが……

29 :名無しさん:2005/07/30(土) 20:48:49
落ちそう

30 : ◆bGB0A2qlVI :2005/07/30(土) 23:26:05
過疎気味なんで一応、宣伝。
したらばの「ゴミ捨て場」に三拍子の話落としました。
もしこちらに載せてよいような物なら、落下したいと思います。
興味ある方は読んでみてください。

31 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/31(日) 00:32:23
第六章〜ひとかけらのきぼうをしんじて〜



その夜の夢見は最悪だった。
よく覚えてはいないけれど、身体の芯から凍り付きそうな寒さだけがやけにはっきりと記憶に残っている。

――まるで、吹雪の中に放り込まれたような。

「――しずちゃん?」
一瞬の沈黙のあとでようやく呼ばれた事に気付き、慌てて顔を上げる。
本日最初の仕事の、楽屋。悪夢しか見なかった眠りは疲れを癒してはくれず、どうやらいつの間にかぼんやりしていたらしい。
「……あ、何?」
顔を上げてからその言葉を発するまでの一瞬の間があったのは、自分を呼ぶその声が昨日までと違う響きを持っているような気がしたからた。
「もうそろそろお呼びが掛かると思うんだけど……何ボーっとしてんの?」
掠れ気味で少し高いその声は、すっかり聞き慣れたものなのだけれど――。
(――違う)
考えるより先に、そう思った。
呼ぶ声は一緒なのに、違う。声も、やけに凝った言葉の選び方も、人差し指で眼鏡を押し上げる些細な仕草さえ、変わらない――けれど、違うのだ。
昨夜の出来事のせいで今更確かな違いに気付けるようになったのか、それとも、全てを知られた今となっては意味がないと、山里の方が普段通り装う事を止めたのか。
恐らくは両方なのだろうが、山崎の知る相方がお世辞にも芝居が上手いとは言えない事を考えれば、認めたくはないが前者の割合の方が高かった。
違和感を感じていながら昨日の夜まで確かな違いに気付けなかった自分が情けない。
「ごめん……ちょっと考え事してたわ」
度を越した違和感に、鈍い頭痛さえ感じる。
ぎこちなくはあるがそれでも笑みを浮かべ、酷く冷たい相方の目を、真正面から見返した。
目を逸らしてはいけない。
今目を背けてしまったら、その事が自分達の間にあるものを本当に全て、壊してしまうと――限界まで張り詰めたギターの弦がぶつんと切れるように呆気なく、何もかもを断ち切ってしまうのだと、それだけはなぜかはっきりと分かった。
無意識に、拳を握り締める。暖房が効いているはずの楽屋は、なぜか寒かった。

32 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/31(日) 00:33:44



――重苦しい灰色の雲が漂う空に、細く欠けた月が微かに輝いている。

人通りのない寂れた道を歩いていた山崎は、ふと立ち止まり夜空を見上げた。
今日の仕事はもう全て終わり、普段ならあとは帰るだけだ――普段なら。
視線を星の見えない夜空から右手に持っていたメモに移し、再び歩き出す。
それからしばらく歩いたあと、十五階程の高さがあるテナントビルの前で立ち止まった山崎は、手元のメモと目の前のビル――正確には、玄関横に取り付けられたビル名が刻まれたプレート――とを見比べ、ポツリと呟いた。
「……ここ、か……」

今日最後の仕事が終わったあと、山里に渡された四つ折りのメモに書かれていたのは、ビルの名前と住所、そして時刻と『屋上で待ってる』の一言だけだった。
やはり綺麗とは言い難い、見慣れた字。命令されているようで気分が悪かったのだが、まさか逃げ出すわけにもいかないだろう。
(それにしても……方向音痴やったら間違いなく迷うな、この寂れ方)
テレビ局から比較的近く地名も聞き覚えはあるが、山崎はこの辺りまでやってくるのは初めてなのだ。
言葉で伝えた場合に誰かに聞かれる事を警戒したのかもしれないが、例えば道に迷うとか、そういう事は考えなかったのだろうか。
「……ま、どうでもええか」
もし迷いでもして時間を過ぎても来なければ、携帯電話に連絡を入れて誘導するつもりだったのかもしれない――それはそれで間抜けな光景だと思うが――と結論付けた山崎は、右手ごとメモをパーカーのポケットに突っ込んだ。
この時間、勿論玄関が開いているはずはないので、ビルの横に回り込む。
昨日の夜にでも下調べでもしておいたのだろうか。確かにこの様子なら派手に暴れても人に見つかる心配はないだろうが――。
(薄々覚悟はしてたけど……屋上までこれで行け、と?)
どこか古めかしい外付けの非常階段を見て思わず溜息をつき、山崎は長い階段をゆっくりと上り始めた。

33 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/31(日) 00:34:57


街の雑多な音も遠くにしか聞こえない、静かな非常階段に、ただ足音だけが響いている。
両手をパーカーのポケットに突っ込んだまま、黙々と階段を上り続けていた山崎は、十二階の踊り場までやってきたところで立ち止まった。
先程地上から見たときの目測が正しければあと少しで屋上に着くはずだが、長く続く階段をひたすら上っていると気が滅入ってくる。
石の力で飛んでしまえば楽なのだが、こんなところで無駄遣いするわけにもいかないのが辛い。
絞首台の十三階段を上るのもこんな気持ちなのだろうか、と一瞬考えて、とりあえず建物の中へと通じる鉄扉に寄り掛かった山崎は思わず唇の端に苦笑を浮かべた。

――大人しく殺されてやるつもりなど、欠片程もない癖に。

少なくとも自分は、他人の為に死んでもいいと真顔で言えるような自己犠牲の塊ではなかった。
ただし、だからと言って絶対に死なないかと問われれば答える事は出来ないのだが――いや。本当のところ、状況は絶望的だった。
自由に飛び回れる屋外は昼間なら有利な場所なのだが、山崎の能力は発動中極端に夜目が利かなくなる為、夜は少々分が悪くなる。
しかも今日の空は雲が多く、月も半分以上欠け、黒い布に出来た裂け目のように細く頼りない。少しでも視界を良くしてくれるのは、遠くに見える街明かりのみだ。
それでも、自分はたった一人でこの場所に来た。正々堂々などという言葉は無視して浄化の力を持った誰かを呼んでしまえばほぼ間違いなく勝てると、呼ばなければ負ける――もっと具体的に言えば殺される――かもしれないと、そう知りながら。
誰かを呼んでしまえば彼の意思を裏切る事になると、裏切りたくないと、そう思ったのだ。

34 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/31(日) 00:36:03
弱々しく闇を照らす古びた蛍光灯に視線を向けながら、山崎は唇の端に浮かんだ苦笑を深めた。
自分を殺そうとする相手に対して『裏切りたくない』などど思った事がどうしようもなく愚かで、滑稽で――それでいて、何より大切な事だとも思えた。
寄り掛かっていた鉄の扉から離れ、首元に手をやって服の上からペンダントを握り締める。
仕事の合間の時間ひたすら回復――つまりは精神集中――に努めていたおかげで、万全とは言い難いが昨日よりはかなりマシな状態になっていた。合わせて十分程度なら全力を出せるだろう。
気ぃ失う程度にシバいて浄化の力持った奴のところまで連れていく、という大雑把かつ穏やかでない努力目標を再確認し、山崎は再び階段を上り始めた。

(やっと着いたか……)
十五階の踊り場までやってきたところで、視界が開けた。
階段の先、左手には屋上のフェンスと扉が見えている。
足を止め、目を細めてその扉を数秒見つめると、山崎は一段一段踏み締めるようにゆっくりと再び階段を上り始めた。
あと、十段。
まだ石の力は解放していないが、鋭く研ぎ澄ませた感覚はすぐ傍の冷たい気配を感じ取っている。
あと、五段。
それでも歩みは止めない。逃げ出す事も目を背ける事もしてはいけないと、痛い程分かっていた。
昨日の夜、痛々しい程の諦念を含んだ目に一瞬でも視線を逸らしてしまった事が、今は酷く腹立たしい。
あと、一段。
真っ直ぐ前を向いたまま最後の一段を上り切り、ゆっくりと左を向く。

屋上と非常階段を隔てている、金網の扉の向こう――街明かりと微かな月光に照らされ、見慣れたシルエットが見えた。

35 : ◆8Y4t9xw7Nw :2005/07/31(日) 00:39:06
今日はここまでです。

>>30
したらばに投下されたのを読みましたが、大丈夫だと思います。
投下お待ちしてます。

36 :名無しさん:2005/07/31(日) 03:35:42
乙です!したらば投下分と細かいところが変わっていて、楽しませて頂きました。
次回も期待しております。

37 : ◆bGB0A2qlVI :2005/07/31(日) 10:34:43
乙です。ゾクゾクするような展開がいいですね。
楽しみにしてます。

私のほうは、様子を見て落とそうと思います。

38 :名無しさん:2005/07/31(日) 13:25:28
乙です!
したらばの時から楽しませていただきました!
続き頑張ってください!

39 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 15:53:29
前スレからの続きです。ああドキドキ…

田村の額から、ほんの少しだけではあるが、うっすらと血が滲んでいる。鞄をひっくり返し、バンソウコウを取り出すと、その額にぺたっと貼り付けてやった。
「わっ、タンコブ出来てる。……吉田は変な所で乱暴やなー!」
吉田達がちゃんと待ってくれているのかを確かめるのを兼ねて、聞こえよがしに駐車場の外へ向けてわざとらしく叫んでみると、少しして、
「陣内さんに言われたくないです」と小さく返事が返ってきた。
ああ。いるいる。意外と律儀なんや。
怒っているのかすら分からない吉田の口調に苦笑いを浮かべ、立ち上がる。石を見ると、また黒さが増していたのが分かった。
汚い色、と呟き握りしめる。自分の石ながら、なんだか気味が悪くなりポケットの中に乱暴に突っ込んだ。
そして近くに停めてあった自転車のサドルに腰掛け、田村に視線を移した。

「よっしゃ!じゃあ、頑張ってな。俺の“タムラロボRX”!」
「「ださっ」」
馬鹿馬鹿しすぎるそのネーミングセンスに、ベンチに座ったまま思わず吉田と阿部の突っ込みが入った。
意識を失ってしまった人間は、動かない人形と同じだ。
陣内の言う、随分と高性能な“おもちゃ”と化してしまった田村の目が人形のごとく、ぱちっと開いた。
陣内は相変わらず、世間に『癒される』と評される、作り笑顔でない自然な笑みを浮かべていた。


40 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 15:54:56
「…眠た…」
ガタゴトと危なげに揺れる古いエレベーターの中で、川島は壁に背を預けていた。手にはコーヒーやジュースやらが入ったビニール袋を提げている。
エレベーターの振動が心地よく、目をつむった。
(そういえば、あのときも…。)
あの時。田村の力が覚醒したとき、二人で一緒に戦ったとき。妙に心地よかった。
少なくとも独りで戦っていた頃よりずっと良い。この感じはきっと、…安心感だったと思う。
“光”の田村と“影”の川島。能力を上手く使えば無敵になれるかもしれない。
「これからは…二人で戦うのも、悪ないかな」



エレベーターが開くと、そこには先ほどまで考えていた人物が居た。
「ぅわっ…え、田村?」
ドアのすぐ近くに、長身の相方が立っていた。
どこか様子がおかしい。話しかけても返事をしない。
うつむいた顔をのぞき込もうと足を踏み出すと、どん、と突き飛ばされエレベーターの壁に背中が当たった。
チキチキチキ…と何処かで聞いたような嫌な音がした。田村の右手には、カッターが握られている。
「……っ!」
川島は目を見開いて息を飲んだ。手に握られているカッターの刃が電球に反射して妖しく光る。悪寒が身体を走った。
突然、田村が顔を上げ、川島向けて突進してきた。狭いエレベーターのなか、ましてや壁際にいては逃げる術がない。
バンッ!―――顔の真横に片手を付かれ、いよいよ身動きが取れなくなる。そのままの勢いでカッターをもった手を振りかぶり、川島の顔を一突きにする要領で振り下ろした。


ばきんっ。と壁にぶち当たったカッターは根本から折れ、床に落ちた。
田村の目の前に、川島の姿は無い。


41 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 15:56:24

(んっ?)
柱の影でこそこそと隠れて様子を見ていた陣内が眉をしかめた。
「はあっ、はあ…」
田村の背後に伸びた影から川島が現れた。カッターが振り下ろされる瞬間、自分に覆い被さる田村の影を利用し、影の中を通り抜けていったのだ。
田村は振り向きざまに再びカッターの刃を出すと、ゆっくりと川島の方へ歩き出した。閉まり掛けたドアに身体を挟まれるも、肘を広げて無理矢理こじ開ける。
田村が襲ってきた事が理解出来ないのか、川島は腰が抜けたように座り込み呆然肩で息をしている。
(ははっ、これで終いや!)
陣内は小憎たらしい笑顔で小さくガッツポーズをする。
田村のカッターが再び川島に向け振り下ろされた。
―――ぶしっ、という音を立てて、田村の服に液体が散った。
惨劇を見ないように顔を背け、耳を塞いでいた陣内は、こっそり柱から顔をのぞかせてみた。
可哀相な川島。まさか相方に殺されるなんて、思っても見なかったやろうなぁ!あはははっ!

「あ…あっぶな〜……」
――――はっ…?
口を開いたのは、川島だった。その手には、盾に使ったコーヒーの缶。それにカッターの刃が突き刺さり、そこからコーヒーがぽたぽたと滴り落ちる。
歯を食いしばり、缶ごと田村の身体を押しかえすと、カッターは缶から抜け、田村は二、三歩後退した。
慌てて座り込んだ体制のまま手足をばたつかせズリズリと後ろに後退し、じっと田村に目線を合わせたまま手探りで掴む所を探し、指先に触れたパイプを掴んでゆっくりと立ち上がった。


42 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 15:57:34
川島はあることを思い出した。昨晩、陣内が呟いた「酷い目に遇わす」という台詞。まさか、石の力で相方を操って襲わせるなんて器用な真似が出来るとは考えもしなかった。
何て外道な……いや、それよりも、「光」という、陣内の石の効果を掻き消す力を持っていながら簡単に操られてしまっている間抜けな相方の姿に、川島の怒りのボルテージは上がっていった。
仕方ない。この川島様が目を覚まさしてやる。

(ほんっっっまに!殺しても死なへんなぁあの男!!)
陣内の黒目がちな大きな瞳がギラリと光るとそれに同調するように何も映さなかった田村の虚ろな瞳の奥が光った。
(これでも、くらえ!!)
瞬間、田村の身体が強い力に引っ張られるかのように川島の方へ向けられた。その距離は一気に縮まったが、川島は逃げなかった。きっ、と目の前に迫った田村を持ち前の鋭い眼孔で睨みつけると、左手に持っていた缶を田村の顔に向け、プルトップを開けた。

ブシュウウウウ…
缶からこれでもかという位の勢いで中身が飛び出し、相手の顔面にクリーンヒットする。
「っぶはぁっ!?」
現実に引き戻され、叫び声を上げた。
振り上げた手から力が抜け、カッターが堅い床に落ちた。
突っ立ったまま、濡れた顔を犬のようにぶるぶると振る。何があったか分からずぱちくり開いた目には既に虚ろさは無く、いつもの輝きを取り戻していた。
「え…えーと…何?」
眼前30pまでに迫った相方の恐ろしい形相を見て、機嫌を伺うように尋ねた。
途端、カコンっ、と軽い音を立てて田村の頭に空き缶が投げつけられた。
綺麗に跳ね返ったそれはコンクリートの地面に落ち、数メートル転がった後壁にぶつかりやっと停止する。
缶のラベルには“炭酸飲料”の文字が。
「痛〜…つか、かゆい…」
「お前の名前は?俺は?仕事は何や?」
「…田村裕…で、川島明。…漫才師」
「おう、目ぇ醒めた?」
「……醒めた」
ごめん。とジュースのせいでべとべとになってしまった髪をいじりながらも、ぺこりと川島に頭を下げる。


43 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 15:58:42
「死ぬかと思った。今度こんな事あったら、もう相方やって認めんからな」
「ご、ごめんて!気ぃ付けるから許してや!」
「分かったから触んな!そこジュースをなすりつけない!」
すっかり糖臭くなった田村の上着を無理矢理脱がせ、鞄から取り出したタオルを投げつけた。
「あのな、川島、気絶する前…俺見たんや。陣内さんが…」
いつになく真剣な表情で、タオルで顔を拭きながら言葉を噤む。
「分かっとる。俺も感づいてた所や…」
言い終わらないうちに、ぱたぱたぱた…と後ろで逃げるような足音が聞こえた。
「ああ!やっぱ隠れてたんか!」
「もう追っても無駄やろうな…諦めろ。」
――どさっ
「…あ、こけた」
「まあとりあえず…陣内さん、大丈夫すかー?」
何処に居るのか分からないが、遠くで陣内の声がした。
「うるさい!!黙れ、悪者め―っ!!」
「「……“悪者”?」」
田村と川島は、互いに顔を見合わせて、首をかしげた。陣内が襲ってきたのは、個人的な恨みだけではなかったのか?



勢いよく自分たちの前を通り過ぎた陣内に、吉田は声を掛けた。
「陣内さーん、どうしたんですか?」
急にブレーキをかけ、前につんのめりながらも踏ん張って体制を戻し、ぐるっと振り返り陣内は叫んだ。
「もーっ!!また負けたぁ!転んだし!もう痛い!」
「負けたんだってさ」
「あー、そういうこと」
吉田と阿部が何かぼそぼそと短い会話をすると、吉田がゆっくり歩み寄ってきた。
手には小さな小瓶が握られている。その中には、あの黒い破片。
眩しいくらいの月明かりも反射しない、何も映さない、奇妙なカケラだった。
「これ、残り全部あげます。今度こそ成功すると…いいですね」
そう言って、陣内の手にぎゅっと握らせる。


44 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 15:59:51
「いいんか?」
「もちろん」
「……」
「いらないんですか?」
「えっ、いや、いる。サンキュー」
「どういたしまして」




陣内と別れ、吉田と阿部も細い路地を歩いていた。
「吉田も悪だね」阿部が独り言のように会話を切り出す。
「そっ、ありがと」
「悪っていえば…聞こえた?陣内さんが叫んでた声」
「“黙れ悪者め”ってやつ?」
吉田の足が止まる。それに気付いて阿部も振り返った。
「うん。完全に俺たちの言ったこと信じてるっぽかったね、何かかわいそ…」
「可哀相なんて言うなよ。まるで俺らが嘘吐いたみたいじゃん。実際黒のユニットにとって麒麟の二人は“悪者”になるわけだし」
吉田のその言葉に、恨めしそうなジト目を向ける阿部。
吉田はただ、阿部の顔を見ないようにそっぽを向いて、その視線に気付かないふりをするばかりであった。
「陣内さんは…あの人はもう駄目だ。見ただろ、あの石。暴走し始めるのも時間の問題だ」

空を見た。綺麗な月は厚い雲に覆われ、今にも消えてしまいそうだった。
悪い予感がする。明日、何か起こる。そんな気がした。


45 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/31(日) 16:04:13
ここまで。投下って緊張するよ、ふー。


46 :名無しさん:2005/07/31(日) 23:59:30
乙です!
ものすごく面白かったです!
陣内さんはどんな時でも天然ですね。
だから憎めないキャラなんでしょうけど。

47 :名無しさん:2005/08/01(月) 09:58:01
乙!

陣内さんが壊れて(?)いく様にドキドキしながら読みました。
今後の展開が、非常に楽しみです!

48 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 11:57:39
お久しぶりです。クルスです。遅くなりましたがハロバイ編の続きを投下します。



芸人が入り乱れるルミネTheよしもと。出番を終えたハローバイバイの2人は他の出演者達に挨拶を終えると早々と帰り支度を始めていた。
「関、帰るぞ」
「あー、うん」
既に準備を終えてそわそわと落ち着かない様子の関に声を掛け、楽屋を出る。以前の関なら出番が終われば相方を放ってすぐに帰っていたのだが、今はそうはいかない。もしも襲われた時の事を考えると、なるべく2人で居たほうが良いのだ。
まさか大勢の人間が居る新宿のど真ん中、ルミネの中で襲ってくる奴は居ないだろうが、周りの誰が味方で誰が敵か分からない状況は、やはり落ち着かない。
金成も以前なら仲間の芸人と談笑したりしていたのだが、最近では楽屋の空気自体張り詰めて、そんな雰囲気ではなくなってしまった。たかが石でこんなにも変わってしまうものなのか、と少し複雑な気分になる。
「金成、これから飲みに行かねぇ?」
今日は一緒に居たほうがいい気がするから、と付け足した関に金成は頷く。金成も何となく帰る気分では無かったのだ。

そんな2人を見送る二つの影があることには、誰も気づいていなかった。

「…白なんて、残念だな」




「勘?」
「勘」
関は金成の問いにさも当然のように即答する。だが金成もそれ以上は何も言わない。注意深く周りを見回し、辺りの様子に気を配る。
「だけど、何か嫌な予感したから」
不安気に手首の石に触れる。ふと、そうやって石を弄ぶ事が癖になっている自分に気づき、思わず苦笑した。金成もそれに気づいたのか、慌てて話をそらす。
「そう言えば…お前あの本どうなったんだ?又吉に貸したって言ってたやつ。俺もあれ読んでみたいんだけど」
突如明るい声を出した相方に驚き、ビクッと肩が震える。だが、それが自分の不安を解消するために気を使っての発言だとすぐに気づき、関は微笑んだ。
「あぁ、まだ返してもらってねぇんだ。返ってきたら貸す」
「あ、別に急がねぇからな??」
金成の顔を見上げると、どこかほっとした笑みを浮かべていた。本当は本なんてどうでも良いのだろう。だが、そんな嘘を吐いてまでの気遣いを関は嬉しく思った。



49 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:03:21
暫く歩き、辺りを歩く人も大分少なくなった頃だった。2人は突然妙な気配を感じた。だがそのまま、ほんの少しお互いの距離を縮めただけで何事も無いように歩く。「居るよな?」と目だけで会話をし、気づかない振りをして。
金成はすぐさま手首の石に触れ、軽く目を瞑る。意識を両耳に集中させると石が淡く黄色い光を放った。が、手で覆われた状態のため殆どその光が漏れることは無かった。それを察知したのは隣で歩く相方のみ。
金成が目を開けると、関と視線がぶつかる。同時に頷くと、それを合図に2人は走り出し、本来とは違う道の方へと曲がった。
「人数は?」
小さな声で呟かれた質問に金成は言葉を返す。
「2人。まだ若い男だな。多分、両方痩せ型」
確信を持ち、キッパリと言い切った。関も疑うことはなく、石を構えて攻撃に備える。
(急いでない…?)
おかしい。金成は眉を潜める。
大抵、後をつけている人間が突然走りだしたら普通は急いで後を追うはずだ。なのに後をつけているらしい2人はゆっくりと、落ち着いた様子で曲がり角に近づいているようだった。そしてその2人が丁度曲がり角の前で足を止めたのが金成にはわかった。
「金成…?」
現れる筈の存在が現れず、関は目線だけで金成を見た。と、その時。
「…危ない!」
金成が関を抱きこむようにして地面に倒れた。その瞬間、大きな黒い何かが今まで2人が居たところに落ちた…と言うより勢いよく飛び掛ったのが、倒れる関の目に映った。
「な…!!」
すぐさま起き上がると、「それ」はゆっくりと動いていた。長い体で地面を這うように動き、時折不気味な声を出すそれは───
「龍…?」
関が言葉に出すより早く、金成が呟いた。それは体長5m程。現実には存在しない筈の動物。蜥蜴に翼が付いた様な外見で、眸は赤く輝いて2人を見ていた。その龍は首を擡げてぐわっと口を開く。

「いやぁお見事。龍が関さんを襲うのを見切るなんて」

拍手と共に、聞き覚えのある声が耳に届いた。

「綾部…」

ゆっくりと2人の前に姿を現した男。

ハローバイバイの後輩である、ピース。「平和」の名を持つコンビ。


50 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:05:19


「さすがですね金成さん。龍を見切った上に関さん守るなんて男らしい」
ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべる綾部と、その背後から姿を現した又吉。その姿を見て、関は信じられないと言うように目を見開いた。どうやら、龍は綾部が石の能力で出現させたもののようだ。
「―――何で」
いつもよりも低い声で、搾り出すように金成が言った。
手首の石が一層輝きを増す。
「何故お2人の後をつけたかですか?そんなの決まってるじゃないですか。お2人は白なので、邪魔だなぁと思いまして」
「違う!何で黒に入ったか、だ!!」
珍しく金成が声を荒げる。滅多に見せないその姿に、関は困惑した。
でもそれは当然のことなのかもしれない。ついさっきまでルミネで同じ舞台に上がっていた後輩なのだから…。
「まぁまぁ落ち着いて下さいよ」
あくまでも飄々と対応する綾部。その隣で又吉が無表情に口を開いた。
「そんなんより、綾部の龍がかわされるとは思わんかったわ」
「そうそう!折角音立てないようにお2人の隣にある塀のブロックで作ったのに…。石の能力、ですよねぇ?今発動してるみたいだし…どんな力なんですか?ソレ」
俺の龍が見切られたの初めてですよぉ。と相変わらずの笑みを浮かべ、金成の手首の石を指差す綾部。
「ちなみに俺のは…こんなんですけど」
と、手を動かすと、いつの間にか綾部の傍に居た龍がズルリと動き、2人に襲い掛かった。それは体の大きさにつりあわぬ速さで迫り、噛み付こうと鋭い牙を剥く。
キラ、と関の手首の石が眩しい濃い青の光を放った。そして辺りに一瞬、強い風が吹く。
…それが収まると、そこには沢山の白い影のようなものに絡み付かれるようにして動かなくなった龍の姿があった。
「…!?」
綾部と又吉は驚愕に目を見開く。今までずっと黙って金成の影に隠れるように立っていた関がゆっくりと前へ出てくる。
その目は今まで見たことの無いほど悲しそうで、そして怒りを秘めていた。

51 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:06:10
「…霊界から呼んだ霊。龍よりは強い自信あるぞ」
関の周りに青い炎が浮かぶ。
「ただし、式神だ。普通の霊と違って実体を持てる」
式神、と又吉が口の中で関の言葉を反芻した。綾部はチッと舌打ちをすると石を握る。動かなくなった龍が真ん中から分かれるように2匹になり、拘束が解かれた。すぐさま自分の元へ呼び寄せる。白い影のような式神は関の周りを包むように浮き上がる。
そんな時だった、金成の耳に綾部と又吉の会話が聞こえてきた。かなり小さな声で話していて、普通ならば他の人間には聞こえない会話であろうが、今の金成には声を潜めても無駄だ。
「おい、ピース!!」
金成の大声に、2人は驚いて声の主のほうを見る。
「『ハローバイバイは石を奪うのではなく、黒に取り込んだほうが良い』?お前ら、俺らが黒に入ると思ってんの?」
ニヤリと笑いながら勝ち誇ったように言う。
「何故…わかったんです?」
自分達の会話をそのまま反芻した金成に驚きを隠せない綾部と又吉。
「聞こえるよ。俺にはね。お前達が動揺してる心臓の音も…今の俺なら」

金成の能力は「五感を上昇させる」能力だ。今上昇させているのは「聴覚」。さっき蛇の存在に気づいたのも、後を付けている人間の人数に気づいたのもその為だ。

「…やはり、お2人の能力は白に置いておくのは惜しいですね…」
綾部が眉を顰めて呟いた。その肩を、又吉がポンと叩く。
「俺がやる。綾部はもう能力解き?あんまり長くやるのはまずいんやろ」
そう言って又吉は綾部の前に出る。今まで沈黙を守り石を発動させていなかった又吉を警戒して、関と金成は身構える。
そして又吉がすぅっと息を吸い込んだ、次の瞬間。


「え?」



52 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:10:13


又吉は子供に語るかのように物語を話し出した。そして。

「うわぁあああああ!!!!!」

広い広い何処かの森で、仲間の芸人が次々と殺されてゆく。顔をマスクで覆い隠した殺人者達の手によって。自分は何も出来ずにただ座り込み、ただ殺されるのを待つだけ…。
そして殺人者は鎌を手に、相方の関へ…。

「…止めろぉぉおおおおおお!!!」

空を裂くように金成は叫んだ。



「…いっ…おいっ!金成!!」


肩を揺すり名前を呼ぶ関の声に我に返った。がばっと起き上がり、関の肩を掴む。
「関っ…」
ゼイゼイと息を切らせ汗だくの金成程では無いが、関も息を切らせてじっとりと汗をかき、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。どうやら関も同じ体験をしたようだ。

「どうです?相方が目の前で殺されて…何も出来ない自分は」

又吉が右手に小さな瓶に入った石を持って無表情に立っていた。その石は沢山のクリスタルが結合したような外見をしており、黒く光り輝いている。


53 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:11:55
金成と関は地面に座り込み、ゼイゼイと息を吐く。
「カテドラルライブラリー。俺の石は相手を物語に引き込む…まあ、幻覚みたいなものです。リアルだったでしょう?」
関の石の力は強制的に止まっていた。精神的ダメージが2人とも大きく、立ち上がることが出来ない。
「2人が意識失ってる間に石を奪う事もできたんですけど…やっぱりお2人の力は惜しいのでね」
「どうです?まだ黒に入る気になりませんかぁ?」
対照的な二つの声が、関と金成の脳に直接響いてくるようだった。
厚く重なった雲から、ポツポツと雨が大地を打ちだした。
「…絶っ対…黒になんか入らない!!」
関は立ち上がり、再び石を発動させた。石の能力が裏目に出て、ダメージの大きい金成をかばうように立ちふさがる。
「…っ!!」
又吉と綾部は思わず後ずさる。その関の石はさっきとは比べ物にならないほど強く輝いていた。

「まだそんな力が…やっぱり惜しいな」

綾部は地面に手をつき、龍を作り出すとそれを関へ放った。そして関がそれに対応している間に身を翻し、その場から逃げ出した。
「今日ははこれぐらいにしておきますよ…」
でもまた必ず来ます。と言い捨てて。


「っはー…」
関はその場にへたり、と座り込んだ。
「金成、大丈夫か?」
「…何とか、な。ピースの2人は完全に逃げたぞ。」
「…」
沈黙が2人を包み込む。激しさを増した雨が2人の体と地面を打った。
どれほどそうしていただろうか、ふいに金成が口を開いた。
「…帰るか」
「…うん」
強い雨の中、ずぶ濡れの2人は力の反動とピースから受けた攻撃で重い体で立ち上がり、空を仰いだ。
「ピース…全然『平和』じゃねぇなぁ…」


54 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:15:13



その頃、綾部は又吉の肩を借りて体を引きずるように歩いていた。
「大丈夫か?」
「ああ…」
石の力の反動で強い貧血に襲われ、今は歩くことすらままならない状態だ。3頭の龍に「代償」として血を与えたのだから当然だが。
「ハロバイさん…特に関さんの力は、危険だね」
黒にとって。と続けた又吉の言葉に綾部も頷く。
「でも」
又吉は瓶に入った、黒く濁った石を見つめた。
「引きこめば相当の戦力になる」
綾部も首にぶら下げた石を服の上から軽く掴んだ。
「上に報告、だな」



今回は以上です。ピースは自分の意思で黒に居るという風に書いてます。

55 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:16:16
ピースとハロバイの能力は


関暁夫
石…スギライト(濃い紫)
能力…降霊術を行い、降ろした霊を一時的に自分の式神に出来る。
簡易陰陽師能力のような感じ。
自分の霊力の及ぶ範囲なら人魂をぶつけたり霊魂の塊をぶつけて攻撃も出来る。
特定の霊を呼び出したり、憑依させることもできる。自分に憑依はできない。
金成の「携帯電話が?」の問いに「ハローバイバイ」で答えると
霊力の及ぶ範囲に居る敵1人の魂を一時的に抜いて封印できる。
時間は1時間。封印された人の意識は無くなる。
1度に多くの魂を封印することも出来るが、自分の魂も巻き込まれる。
ただし、力の消費が激しいので2日に1回が限度。
怒りや、何らかの強い気持ちがあると霊力はアップする。
条件…関が敵に対して強気の姿勢で居ないと発動しない。
もし戦闘中に関が弱気になったり戦意を喪失した場合は
逆に力が返ってきてしまい、意識を失う。
混乱状態に陥った場合は敵味方の区別無く攻撃してしまう。
又、もしも戦闘中になんらかの理由で意識を失った場合は強制終了。
憑依の場合、その霊に対するある程度の知識(生前何をした人か、等)とその憑依させたい人の了承が必要。
また、霊力範囲外に居る敵には無意味。
自分の意思で範囲を広げる事もできるが、その分力の消費は激しくなる。
使いすぎると割れるような頭痛と悪寒、体の震えに襲われる。酷い場合は意識を失う事も。


56 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:17:41
金成公信
石…ベリル(薄黄色)
能力…五感のレベルを上昇させる。
視覚を上げると10キロ先まで見えたり動体視力がスポーツ選手並みになる。
聴覚は人の心音や足音を聞き分けたり、音で攻撃を見切ったり出来る。
嗅覚は犬並みになり、瞬時に嗅いだものの成分分析が出来る。毒も察知。
味覚は口にしたものの成分分析、毒の察知を瞬時に。
触覚は空気の流れや風向きなどに敏感になる。逆に痛みを感じなくも出来る。
全てを同時に上げることも出来るが、著しく体力を消耗する。
又、一瞬でも帽子をかぶせた人の五感を、どれか一つだけ封じることが出来る。
ただし、時間は3分。同じ人には1日一回しか使えないうえに精神力の消耗も激しいので多用は出来ない。
条件…能力の発動まで数秒掛かる。その間は全くの無防備。
1度能力を解除すると、30分間その感覚の上昇ができなくなる。
又、少し上昇させる分には問題無いが、上げすぎると微調整が効かなくなる。
五感を封じる際には関にその人に対して毒舌を言ってもらい、
それにフォローかツッコミをいれなくてはいけない。
超能力では無いので、視覚を上げたからと言って遮蔽物を通り抜けて見る事は出来ない。
あくまで「超人レベルに強くする」だけ。
勿論、感覚を上げている間はその感覚は敏感なので、
聴覚を上げている時に超音波などでの攻撃は弱い。
視覚を上げた後は目の霞み、聴覚は耳鳴り、触覚は体の痛み、
嗅覚はめまい、味覚は吐き気という後遺症がしばらく残る。
それは強さや使った時間によってすぐ消える場合と数分残る場合がある。
1日のうちに同じ感覚を何度も上げることは出来ない。5回が限度。
使いすぎると、しばらくの間はその感覚自体が麻痺してしまう。

コンビネーション技
二人で「携帯電話がハローバイバイ」と言うと、関の霊気を具現化して
霊力の届かない場所でも存在できる式神を1体だけ作り出すことができる。
それで防御したり、使い方は様々。金成も自由に動かすことが出来る。
1日1回、30分しか持たない。

57 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:18:37

又吉直樹
石:カテドラルライブラリー(神の大聖堂と図書館の意を持つ。小さな水晶が結合したような外見)
能力:自分の作り出した物語を語ることにより、それを聞く人間をその物語の中に引き込む事が出来る。
一種の幻覚のようなもので、引き込まれた人間は意識を失ったような状態になる。
効果は又吉が話し終えるまで、又は引き込まれた人間の中で物語が完結するまで。
物語の内容で精神的ダメージを与えることも出来る。
電話越しでも可。とにかく声が聞こえれば良い。ただ、引き込まれにくい人も居る。
自分自身が物語の中に入り込んで相手と会話することも出来るが、
あまり長い間物語の中に居ると体力を大幅に削られる。
条件:又吉オリジナルの物語であることが大前提。つまり又吉の想像力、文才にかかってくる。
又、物語を語っている間は無防備。敵に囲まれている場合はキツイかも。
引き込む人数が多ければ多いほど精神力を消費する。
声が周りの音等に邪魔をされて届かなかった場合は、力が返ってきてしまい
又吉自身が物語の中に入り込んでしまう。

綾部祐二
石:エレスチャル(クリスタルの奥に紫の色が着いている。アトランティスの叡智を受ける石)
能力:アトランティスの力を借り、手に触れた物を元に龍を作り出して操る。大きさと数は自由だが、
勿論大きくすればするほど、数を増やせば増やすほど力の消耗は激しい。
条件:龍を作り出す「媒介」の役割をするものが必要。例えば土など、手で触れることが出来る物でなくてはいけない。
空気や風では無理。媒介が固くなればなるほど龍の力は大きくなる。
そして代償として、作り出した龍に自分の血を与えなくてはいけない。
つまり龍の数と大きさに比例して、能力を解除した後に貧血になる。
命に係わることもあるので、あまり長い時間使うことも出来ない。

58 :名無しさん:2005/08/01(月) 12:24:18
ひとりよがりウザイ
せめてsageでやれ

59 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/08/01(月) 12:27:25
すいませんっ!
sage忘れてました。慌ててやるといけませんね…。

60 :名無しさん:2005/08/01(月) 14:27:52
クルスさん乙です!技の種類が多彩で、派手なバトルがいいですね。
次回も楽しみにしてます。

61 :名無しさん:2005/08/01(月) 18:33:49
gj

62 :名無しさん:2005/08/01(月) 18:48:43
こんなスレあったのか。
芸人板に建てるモンじゃない気がするが書いてる人達乙。
こーゆー漫画とかありそうでオモロ。

63 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:10:11
書中、暑中見舞い申し上げます。
三拍子の話を落とします。ちょっとホラーチックです。
死ネタという死ネタではないのですが、ご注意ください。

64 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:10:59
私が幼い頃、川原で見つけた綺麗な石を持ち帰ろうとして、止められたことがあった。
 理由を聞いたところ、「こういう所にある石というのには魂が込められているから、
 不用意に持ち帰ることはできないのだ」との事。
 私は子どもながらに、普通に「汚いから持って帰るな」とでも言えば良いのに、
と思ったものだ。
 しかし、今になってその意味を知った気がする。
 例えそれが、川原で拾ったわけでもなく、偶然見つけたわけでもなく、
 運命によって巡り逢ったものだったと、しても。

 まぁ、避けられないのが、世の常なのだが。


  【ある冬虫夏草の話】[Will you marry me?]


 「へぇ、彼女できたんだ……」
 と、唐突な高倉の一言。独り言のようにも聞こえるが、
 「な、何でお前知ってるのっ?!」
久保をビビらせるには十分だったようだ。高倉は答えることもせず、手の中にある石に
見入っていた。
 そんな高倉の様子を見て、久保はある事に気づいた。
 「ああ! また俺の過去勝手に見ただろ?!」
 「うん」
 「『うん』って……、やめろよなぁっマジで」
 「どうして」
 「どうしてって、プライバシーの侵害だからだよ」
 「大丈夫、なんか、調子悪いみたいだから……」

65 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:13:16
 「へぇ……お前でもそんなことあるんだね」
 「うん……」
 「って、それで納得すると思ったのかぁ?!」
 高倉は勢いよく掴みかかろうとする久保をひらりとかわしつつも、石を凝視し続ける。
器用な男だ。
 「うーん……」
 実際、高倉の石は調子が宜しくないようだった。いつもなら鮮明に見える映像が、
今日はなんだか乱れている。音声も途切れ途切れ。
 「諦めろ。見るなという天のお告げだ」
 久保が無駄に殊勝な笑みを浮かべる。そんな彼に高倉は表情一つ変えずにこう尋ねた。
 「久保には天のお告げが聞こえるんだ?」
 「いや、聞こえないけど」
 「嘘はよくないぞ?」
 「お前なぁ……」
 久保は何かを諦めた。
 「久保、お前の石の調子はどうなんだ……って、お前は持ってなかったんだな」
 「うん、まぁ、な」
 「……ふーん」
 高倉は再び手の中の石を凝視する。未だに調子が悪いようだった。その様子を見た久保が
声を上げる。
 「おまっ、俺が嘘付いてないかどうか過去をさかのぼろうとしてるな?!」
 その久保の言葉に、高倉は心底感嘆したようにこう言った。
 「すごいなぁ、分かるもんなんだね。でも大丈夫。やっぱり、調子悪いみたい」
 「……」
 久保は何かを諦めた。本日二度目。
 「彼女、どんな人なの」
 高倉に質問された途端、久保の顔が緩んだ。

66 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:14:42
 「へへ、すっごく、かわいい」
 「……世も末だな」
 「なんだとぉ?」
 「いや、深い意味は……」
 「お前なぁ? 俺の彼女見たらほんっっっとに羨ましがるんだからなっ」
 久保は自信満々にそう宣言する。
 「じゃあ、見せてよ」
 高倉は右手を差し出す。すると、久保は少し表情を曇らせた。
 「別に良いけど……」
と言ったまま、続きを話し出そうとしない。高倉は怪訝に思った。
 「どうした? いいよ、今すぐじゃなくても」
 「実は……」
するとここで、久保は持参した大きなバックを振り返る。高倉もそれを追うように見る。
 久保は言った。
 「今日、来てるんだ」
 「……え?」
 久保は立ち上がるなり、バックの元へと行く。
 「高倉、来いよ」
 言われるがまま、高倉もバックの元へと行く。行こうとするのだが、
 「久保、ごめん。なんか、それに近づきたくない」
 そのバックはどこにでも売っているような、非常に大きい、ナイロン製のバック。
 「……そっか」
 何故か久保は素直に納得し、その大きなバックに手を掛ける。
 「……久保。彼女の名前、なんて言うんだ」
 高倉は、勤めて自然にそう言った。
 そして久保は、『それ』を取り出すのと同時に、こう答えてくれた。
 「あやめ、って言うんだ。ね、あやめちゃん」
 その姿を見た高倉は反射的に口を押さえた。


67 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:15:48

 多分、それはファンの子から貰ったテディベアだったと、久保が言っていたのを高倉は
覚えている。俺にそっくりだろう、と自慢していた。
 「あやめちゃん、このテディベアが気に入ったらしくてさ、俺、思わずあげちゃったよ」
 そのテディベアの腹部から頭部を劇的に突き破るようにして、
『黄色い半透明の身体をした30センチぐらいの女』が、静かに『生えている』。

 その姿はまるで、冬虫夏草。
 屍骸を糧にすくすくと育った、冬虫夏草。

 久保は本当に大事そうにあやめちゃんを抱えていた。高倉は問う。
 「久保、それは、『何だ』?」
 「……俺の彼女だよ」
 高倉は、右手の石が冷えていくのを感じた。
 「質問を変えよう。久保、『その石をどこで手に入れた』?」
 久保の表情が豹変した。
 「石なんかじゃない! あやめちゃんはあやめちゃんだ!!」
 高倉には分かっていた。あやめちゃんが最近芸人たちの間に広まっている不思議な能力を持った
「石」だということ。
 そして、久保が持っているその石が、とてつもなく嫌な物だということも。
 だからこそ、『あやめちゃんの持ち主である久保の過去を見ることが、拒絶されたのだ』
ということも。
 もっと早く気づくべきだったと、高倉は少しだけ後悔した。
 「それにしても……」
 高倉が、めずらしく感情を吐露する。
 「なんなんだ、この急激な話の展開は」
 非常に、イライラしているようだった。


68 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:16:48


 ストップ。
 リヴァースアンドプレビュー。


 不法投棄。久保はたまたまその現場を目撃することとなる。そんな13日前の午後。
 曇天、それなのに明るい。不吉なことが起こりそうな、打って付けの天気。
 久保は、誰もいなくなったのを確認した後、そっとゴミの山に近づいた。
 普段、こんなシーンに遭遇することも無かったし、ゴミ自体に興味を持っているわけでもなかった。
 それでも、近づいた。もしかすると久保は、
 運命を信じたのかもしれない。ああ、それと、
 諦めを。
 
 まぁ、それはいい。

 久保は、予定通りにゴミの中に運命の人を見つけた。それが、あやめちゃん。
 あやめちゃんというのは、誰が決めたのかは分からない。
 あやめちゃん自身がそう言ったのか、久保が勝手につけたのか、そんなことは知る由もない。
 私は思う。きっとあやめちゃんという字は
 「殺」か「危」と書くのだと。とりあえず嫌な感じ。
 それが、私が最初にあやめちゃんに抱いた印象。


 プレイバック。




69 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:17:44
 「……見えたか」
 高倉はそう呟き、石の意思の意志でも変わったのかと、ややこしく解釈した。
 そして再び久保とあやめちゃんを睨みつける。迫力満点。しかし久保がひるむ様子はなかった。
もちろん、あやめちゃんは論外。
 高倉は思う。久保にそっくりなテディベアが、あやめちゃんに食べられてしまった。
 次は久保孝真が喰われるのかしら、と。それに追加するように、
 「それは不味い」
と、ぼやく。しかし、過去が見える力を持っただけの高倉に、あやめちゃん自体をどうにかする力は
皆無だ。
 ――あの人なら何とかなるのか? だが、久保が聞く耳を持っているのか?それ以前に、あやめ
ちゃんの耳は聞こえるのか。
 あふれ出るように不毛な思考が働く。
 久保と高倉がお互いに睨み合ったまま、ただただ時間が過ぎた。高倉には、久保があやめちゃんを
守らんとしていること以外には、何も分からなかった。
 とりあえず、自分に何が出来るのか、高倉はそれを考えることに専念しようとする。

 ……ところが。

 「失礼します」
 ノックの後に開かれる背後の扉。返事はせず、久保と高倉は後ろを振り返る。
 そこには二人が知らない男が1人、堂々と立っていた。比較的整った容姿だったが、誰なのか
さっぱり見当がつかなかった。久保はとっさにあやめちゃんを隠すように抱く。

70 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:18:48
 「どちら様で……」
 スタッフではないことは明白だった。また、知り合いの芸人でないことから、高倉はそう尋ねた。
 「名前ですか。そんなものはありませんよ」
 知らない男はそう答えた。
 「はぁ、『そんなものはありませんよ』さん、ですか。どこまでが苗字でどこからが名前なので
しょうか」
 高倉はまじめにそう言った。いつもなら久保が突っ込むのだが、久保は何も言わず、知らない男を
睨んでいた。
 知らない男は言う。
 「ぼく自身のことは放って置いてください。そんなことより、そちらの小太りの方。貴方が持って
いるものに、大変重要な用事があります」
 知らない男の口調は非常に事務的だった。しかし、久保も高倉も警戒した。
 なぜなら、この異常事態が発生した場において、知らない男は、意図も簡単に溶け込んでいるから。
 「貴方の用件は分かりましたが、俺の相方が持っているソレ、非常に厄介な物なんですよね……。
それに大変重要な用事があるということは……、貴方自体、厄介な物なんでしょうね」
 知らない男は高倉を見据える。
 「ぼく自身のことは放って置いてくださいといったでしょう」
 「そう言う訳にも行きません。せめて身分を明かしてください」
 「それはできませんね」
 即答だった。あまりにも断言的だったので、一瞬面食らったが、高倉は気を取り直す。

71 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:20:05
 「それでは尋ねます。貴方は久保の石に何の用事があるんですか」
 高倉は、もしかするとあやめちゃんのことを石といえば久保が何かしら反論すると踏んだ。しかし、
久保が何か言うことはなかった。今は知らない男に視線を合わせているので、高倉は久保の方を見る
ことができない。久保も、様子を伺っているのだろうか。
 一方、知らない男は、やはり事務的口調で答えてくれた。
 「それは、ぼくのものです。ずっと探していました。そしてやっと今日、見つけることができたのです。お願いですから、『彼女』を、返してください」
 後半は久保に言っていたような感じだった。しかし、一つ聞き捨てなら無いことがあった。
 「……『彼女』?」
 久保と高倉は、ほぼ同時に尋ね返す。
 「そうです。『彼女』は私の恋人です」
 高倉は再び苛立ちを感じた。久保と同じ事を、この知らない男まで言うのだ。高倉は必死で言葉を
選ぼうとする。しかし、
 「あやめちゃんが何でお前の彼女なんだ?」
先に久保が口火を切ってしまった。
 「あやめちゃん……? 『彼女』のことですか」
 「そうだ」
 「あやめちゃんではありません。『彼女』は」

72 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:22:08


 ストップ。
 

 一瞬だけ、見えた。先ほどの不法投棄現場。そこにあやめちゃんを捨てていった男。
 この、知らない男が、その男。しかし、久保の視点からでは男の顔が見えなかった。
 それなのに今ははっきりと見える。……どういうことだ。


 リヴァース。


 『その視線は知らない男としっかりと合っている。目が合っているのだ』。
 まさか……。そんなはずが……。


 プレイバック。


 「……」
 高倉が我に返ったとき、話はもう先に進んでいて、久保が怒声をあげていた。
 「勝手なこと言うなよ! お前っ、あやめちゃんをあんなところに一人にして、あんなところに
捨てるなんて酷い目にあわせて! それでなにを今更っ!」
 知らない男は反論する。
 「やっぱり、ぼくは『彼女』がいないとダメなんです! お願いですから、返してください!!」
 いつの間にか知らない男の口調が感情的になっていた。加熱する二人の問答に、高倉は一人、冷めている。
 疲れた高倉が、そのまま目を伏せると、視線の先にあやめちゃんがいた。こころなしか、
あやめちゃんからテディベアが剥がれていってるような気がする。
 ――もう、テディベアでは不十分なのか。あやめちゃん。
 高倉は心の中でそう尋ねた。すると……。
 高倉の冷えていた石が、更に冷えていき、凍え、それが手から腕へ、そして全身へと広がっていく。

73 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:22:55
 ……。 


 比較的、早送りの映像だった。
 音声は無い。ただ、流れて、なにがあったのかを教えてくれるだけといった感じだ。
 知らない男が、楽しそうに笑っていた。そんな映像が、しばらく続いた。
 しかしそのうち、知らない男の顔が怒りや嫉妬で醜く歪んで行き、次第にそれだけになる。
 そして歪んだその表情が、更に歪む。
 まるで、最初の幸せそうな表情を思い出すことすら、一切許さぬかのように……。
 そしてとうとう、『私』は、殺された。納得のいかないようで、納得の結果だった。
 しかし、『私』は再び目を開ける。身体は、動かない。喋ることもできないが、知覚はできた。
 知らない男が『私』を愛おしそうに、満足そうに愛でていた。そのとき『私』はまだ、
この男が好きなのだと思った。
 『私』は知らない男の期待に答えようと、『成長』することにした。近くに植物があればそれに
寄生し、それがダメになれば、近くのゴキブリに寄生する。
 別に何でも良いと思い、リモコン、CD、食器、枕、色々な所に寄生した。
 結果、全部ダメにしてしまった。『私』はまた怒られると思い、そしてまた殺されるのだろうと思った。
 しかし、今度は違った。……捨てられたのだ。 
 これは、納得行くようで納得できない結果だった。
 そして、今ここにいる。『私』を見つけてくれた、久保。彼には本当に感謝している。
 でもやっぱり『私』には、知らない男しかいない。それ以外では、ダメなのだ。
 知らない男もそう言ったように、『私』も彼じゃないと、ダメなのだ。


 ……。

74 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:24:19
 高倉は、久保に言う。
 「久保、お前も分かっているんだろう。あやめちゃんが、誰を望んでいるのか」
 「だめだ! あやめちゃんは、俺が、俺が守るんだ……。もう、辛い思いをさせたくないんだ」
 はっきり言って高倉には、今の久保があやめちゃんの所為でこんなことを口走っているのか、それとも、
本人が心から強くそう思っているからなのかは、分からない。
 しかし、とにもかくにも、これ以上久保とあやめちゃんを一緒に居させる訳にはいかない。

 growing,growing/i am growing now/

 高倉は、言った。
 「久保、聞こえているんだろ? あやめちゃんの声が。俺なんかより、よっぽど」
 久保は、震えている。
 「だけど、だけど……」
 「……久保、あの人にあやめちゃんを『帰そう』? お前が一番分かっているはずだ。あやめちゃんが、
何を望んでいるのか」

 久保の腕の中でほのかに光る、黄色い女。
 着ていたテディベアでは足りないのか、それとももう飽きてしまったのか、大胆にも
 彼女は久保の腕の中でそのきぐるみを、ゆっくりと脱ぎ始めている。
 まるで、羽化するかのように。しかし、
 所詮は冬虫夏草。高倉は知っている。
 彼女にとって最適で最悪な、本当の棲家が見つかったことを。
 久保は知っている。彼女にとって最高で最良な、本当の住処が自分ではないことを。


75 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:25:52

 久保は、本当に本当に名残惜しそうに、俯きながら知らない男に、あやめちゃんを、渡す。
 知らない男は強奪するように、久保からあやめちゃんを受け取った。

 その決着は、一瞬で付いた。

 久保と高倉は、瞬きをせず、その一部始終を目に焼き付けた。
 知らない男があやめちゃんを強く抱きしめた瞬間、あやめちゃんは急激に成長。驚いた知らない男が
手を離す間もなく、あやめちゃんは知らない男の体の穴という穴から侵入。
 聞くのに絶えない音が、部屋中に広がり、知らない男の断末魔も、それに混ざる。
 そして、絶望的な時間が怒涛のように流れきった後、何事もなかったかのように、
全てが元通りになった。
 知らない男が、目の前に横たえてそれ以上動かなくなったこと以外には……。



76 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:27:47
 そして、その後のことだ。

 通りすがった芸人仲間が久保に声を掛ける。
 「お前、そのドーゾーかなり気に入ってるみたいだな?」
 久保は笑いながら答える。
 「銅像じゃないよ」
 「お前ヤラしーな? 女の裸のドーゾー毎日手入れしやがって」
 「別にそんなんじゃないよ。それに、銅像じゃないからね」
 芸人仲間は、茶化すつもりでこう言った。
 「なんだ? じゃあ、石像か? ずいぶんとまぁ、綺麗な黄色じゃんか」
 「近いね。ただの石像じゃないよ」
 「ん?」
 イマイチ分かっていない芸人仲間に、久保は笑顔でこう言った。

 「生きてるんだ。彼女」

 立派に成長した彼女は、久保の芸人仲間に、満足げに素敵過ぎる笑みを浮かべて見せた。


 I just wanna do ya? Yes,I am still growing,now.
 だけど、この話はもう終わり。


77 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:34:07
……以上です。どうでしたか?
少しでも呼んでくれた方に楽しんでいただければ良いなというのが、私の常なる思いです。
途中で切って万が一落とせなくなるとアレなので、一気に落としました。
大丈夫、ですよね?

以下補足

「あやめちゃん」について。
あやめちゃん=ライフジェム:→
黄みがかった人工ダイヤモンド。人の遺灰や遺骨から採取した炭素を基に作る。
能力→できる由来も相まってか、石そのものが意思を持つ変り種。
想い人に寄生し、生命を吸い取りガン細胞のようにどこまでも成長する。菌類でいうならまさに冬虫夏草のような感じ。
条件→想い人がいなければならない。また、この石を寄生させるには持ち主が気に入られなければならない。
基本的にすごく頑丈だが、「栄養」がなければただの石になる。

78 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/01(月) 20:36:52
77について訂正。
呼んでくれた方→読んでくれた方
スレ消費申し訳ありません。本文は大丈夫だと思いますが、万が一あれば
ご指摘ください。

79 :名無しさん:2005/08/01(月) 21:38:55
佐川さん乙華麗。

見入っちゃったよ
オモロかった

80 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/02(火) 15:42:32
79さん 感想ありがとうございます。
楽しんでいただけたようで何よりです
これからも精進します

81 :名無しさん:2005/08/03(水) 14:36:29
佐川さん乙!!
面白かった!文体に引き込まれた。
応援しています!

82 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/03(水) 18:16:33
81さん、感想ありがとうございます。
正直不安だったんですが、感想いただくことができたので嬉しいです。
次投下する機会がありましたら、またよろしくお願いいたします。

83 :名無しさん:2005/08/05(金) 01:31:31
まとめサイト見れない…
自分だけ?

84 :名無しさん:2005/08/05(金) 13:20:37
漏れは見れるが、ちょっと重いように感じる<まとめサイト

85 :名無しさん:2005/08/05(金) 22:43:01
見れる様になりました。
何だったんだろう

86 :名無しさん:2005/08/06(土) 11:36:10
乙。成立してておもろかった〜
でも多少すさんだ話だから、番外編扱い?

87 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/06(土) 19:37:23
86さん、感想ありがとうございます。
荒んでますね。私としては番外編か本編かというのは頭に無かったです。
このスレのコンセプトが
「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」
ということなので、それを軸にして考えました。

88 :名無しさん:2005/08/07(日) 20:27:51
別に感想レス付くたびにいちいち律儀にレス返ししなくてもいいと思うけど。
単発レスに単発レス返しばっかでスレ消費するよりは、
したらばとかでレス返したほうがいいんじゃないかなーと思わなくもない。
良くも悪くも馴れ合いは本スレよりあっちでする方がいいんじゃないかなと。

89 :名無しさん:2005/08/07(日) 20:32:22
88に同意。
感想は書き手の元気の源とは思うが、続きはしたらばに誘導して、
ここでは「次ドゾー」みたいに一区切り付けてはいかがか。
他の書き手さんも割り込みづらくなりそうだから。
小姑ぽくてスマソ。

90 :佐川優希 ◆bGB0A2qlVI :2005/08/07(日) 22:02:27
>>88-89
これにはレスつけます。
ご意見ありがとうございました。
実をいうと私もどうしようかと思っていたところです。
これからレスはしたらばで一旦話を置いたスレにやっておきます。

というわけで、
次の方カモ------ン!! щ___(゜ロ゜щ

91 :お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA :2005/08/08(月) 01:12:23
長い間放置していてすみませんでした。私生活の方が少し落ち着いたので続きを落としていきます。

まとめサイト オパール編9の続きです


徐々に近付いてくるコンクリート製の固い地面は、確実に矢作を死へと導いている。
柴田の石の力で人間不信に陥り心を蝕まれていた彼は、その苦しさから逃れる為に死を選んだ。
「…誰も悲しまないだろうしな。良いんだ…これで楽になれるんだ」
そう呟き落下に身を任せようとした矢作の身体に突然ガクンと衝撃が走った。
見上げていた星空に真っ暗な影が落ちてきたと思った瞬間、
その影から伸びてきた腕に肩を掴まれたのだった。
「あれ…小木?…何やってんの?」
落下のショックで落ち着きを取り戻していた矢作は、突然目の前に現れた相方の姿に声を上げる。
「何って、あれ?俺何やってんだろ…」
無我夢中とはまさにあの時の状態のことなのだろう。
自分でも状況を把握できていない小木は矢作の問いに曖昧な答えしかできないでいる。
「俺が飛び降りたから、追いかけてきたのか?」
自分達の危機的状況を理解できていないのか、ゆったりとした口調で矢作は訊ねた。
「ああ、そうだ!驚いたよ。屋上でやっと矢作を見つけた思ったら、急に目の前で消えちゃうんだから」
小木は今思い出したといわんばかりに、大げさに手を叩いてみせた。
その目には元の調子に戻りつつある相方、矢作の姿が映っていた。

92 :お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA :2005/08/08(月) 01:14:08
「なぁ…どうして追っかけてきたんだよ…」
改めて辺りを見回せば速度はやけに遅いものの、二人の体は確実に地面へと近付いて行っている。
「どうしてって?」
「だって…このまま落っこちて行ったら俺たち死んじまうんだぜ?」
相方のあまりの緊張感の無さに、矢作は調子を狂わされているような気分になる。
「でも、ほっとけなかったみたい…大事な相方でしょ?」
小木は傍目からすれば気持ち悪いくらいの、しかし彼らにとっては当たり前な笑みを浮かべた。
「俺と一緒に、心中しても良いっていうのか?」
「…それは、困るかな」
疑り深げに訊ねた矢作に、今までの笑顔とは一変して困ったような顔で小木は答える。
「…お前、やっぱ面白れぇな」
それを見た矢作は、あの事件以来久し振りに笑いながらそう言った。
「なに、お前には負けるよ…」
久し振りの相方の微笑みに、小木もつられて表情を崩した。

矢作の石が彼のシャツの胸ポケットで光っているのが見える。
元の石の輝きと、侵入者である赤黒い光が争っているかの様に混ざり合い分裂し、
それはまるでお互いを消そうとしているかの様に見えた。
その光景を見た小木は、矢作に掛けられていた暗示が解けつつあることを悟った。
「なぁ矢作」
赤黒い光が小さくなったのを見計らって、小木は矢作に声を掛ける。
「ん?」
何だよ改まって、と矢作は少し眉を顰めて言った。
「俺さ、今凄くなりたいものがあるんだ」
その言葉に反応し、矢作の石の輝きがいっそう強くなる。
「…お前のなりたいもんにはならしてやりてぇからな…何でも言っていいよ」
少し考えたような素振りをしてから快く了承する。
何度も見たことのあるそのやりとりは、彼等の漫才中に良くやっていたものだった。
「俺、俺さ…相方に心から信頼してもらえる相方になりたい」

93 :お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA :2005/08/08(月) 01:17:16
「…そんなんで、いいのか?」
信頼、という言葉に反応し赤黒い輝きが完全に石の輝きに飲み込まれたのを、小木は見逃さなかった。
「凄く大事なことじゃない?」
駄目押しの一言。これで終わりだ、と心の中で小木は呟く。
「ああ。やっぱ俺の相方はお前しかいねぇよ」
照れ臭そうに矢作が言った瞬間、彼の目の曇りは完全に晴れた。
矢作の心を閉ざし続けていた暗示が解けたことを示すかのように。
それとほぼ同時に彼の石から弾き出された赤黒い光の塊は、
物凄い速度で空中へと飛び出してそのまま建物内へと消えて行った。

「で、どうしよっか…」
当然のことながら、暗示が解けたからといって時間が戻るわけではない。
「どうしようね…」
彼等の身体は未だ空中を落下し続けているのだった。
ゆっくりとした速度ながらも、徐々に地面は近付いている。

「ぁ、アカン!!もう無理や…力が、届かへんっ!!」
今まで屋上から二人の落下スピードを下げていた後藤が遂に悲痛な叫び声をあげた。
身体に掛かっていた重力による体力の消耗と、
術者と対象との距離が開き過ぎたのとで能力の限界が来たのだった。
「光が…」
後藤を支え続けていた岩尾の目は輝きを失っていく相方の石を捉えていた。
屋上からは夜の闇の所為で二人を殆ど確認することが出来ない。
「そんな…諦めるなよ!」
がんばれ、そう言おうとした有田を上田が止めた。
「言うな。これ以上は…後藤が死んじまう」
此処まで頑張った後藤にこれ以上頑張れというのは酷過ぎる。
無理にやらせて力の反動で圧死されるわけにもいかない。
「でも、それじゃああの二人は!!」
襟を掴んで声を張る相方の腕を思い切り払い、上田はそれ以上の声で叫んだ。
「分かってる!けどな、これ以上は無理なんだ!!」
上田は体力精神力ともに使い果たし憔悴しきった様子の後藤を気遣ったのだ。

94 :お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA :2005/08/08(月) 01:23:44
彼は悔しそうに拳を握り締め、二人が吸い込まれて行った暗闇を凝視する。
あの二人の能力からしても自力で助かるはずが無い。
地面に座り込んで肩で息をしている後藤の表情は俯いていて分からない。
だが彼の心の中は筆舌に尽くしがたいほどに混乱しているだろう。
「…もう、やれることは、全てやったんだ」
後藤の方に手を掛けて「お前は悪くない」と彼に言い聞かせるように上田が呟く。
残酷な現実を叩きつけられ、皆茫然自失で立ち尽くしていた。

突然グンと落下スピードが上がり地面との距離が見る見るうちに縮んでいく。
「…これ、ちょっとやばい状況かな?!」
擦れ違う風の音も大きくなりお互いの声が聞き取り辛くなる。小木は大声で矢作に言った。
「悪ぃな…小木。俺の所為だ」
風の音にかき消されそうな声で、矢作は小木への謝罪の言葉を呟く。
「まだ、まだ生きている!諦めちゃ駄目だ!!」
小木は諦めて目を伏せる相方の肩を掴んで力強く叫んだ。
「でももう…」
矢作の言葉はそこで途切れた。小木の言葉もそれ以上は聞こえてこなかった。

95 :お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA :2005/08/08(月) 01:28:15
終り方微妙ですが「死にネタではありません」ので、そこんとこ宜しくお願いします。
久し振りに書いたらなんだか日本語微妙な部分ありますが適当にスルーしておいてください。
では、また続きが書けたら落としに来ます。だらだらと長い話ですが、
何とか終らせるだけ終らせたいと思いますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

96 :名無しさん:2005/08/08(月) 01:52:40
>>91-94
うおあぁぁぁぁぁお久しぶり!!
ずっと待っていましたよ!

今後の活躍も、期待しています。

97 :名無しさん:2005/08/08(月) 08:00:24
>>91-94
続き楽しみにしてたよ
とりあえず超乙。

98 :名無しさん:2005/08/08(月) 08:22:30
>>91-94
待っていました〜!
この話に出ている人物みんな大好きなので…!
応援してます!

99 :名無しさん:2005/08/08(月) 08:43:31
>>91-94
激しく乙彼
俺も応援してるぜ

100 :眠り犬:2005/08/08(月) 12:19:11
突然ですがお久しぶりです。
そして遅くなりました、新スレ乙&オメです!!
リアルの方が忙しくてネットが全然できませんでした…。
ゆびきりげんまんの続きを書き終えていないのですが一応(生存確認で)
本スレに書き込みをしておきます。
3話では南キャン&東ダイという組み合わせの理由をちゃんと説明する
予定です。(好きな芸人くっつけただけなんて書けないよorz)

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