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もし芸人に不思議な力があったら2

1 :名無しさん:05/02/10 19:26:11
現まとめサイト
http://geininstone.nobody.jp/


・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってます
・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。

163 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:39:32
仰ぐほどに高い青天の下、コンクリートに日光が反射しているせいで華やかに色彩が映る。
着色されてしまった写真の自然とは違い、肉眼で確認できる木々は各々が生き生きしていて軽やかだった。
人工的に植えられた花もある程度馴染んでいるらしく、少なくともやる気を無くして枯れることはない。
小さな生き物の近くに腰かける小林は、上機嫌な風光に合わない手荷物を膝に抱えていた。
鞄から出て姿を晒しているのは使い慣れてしまったノートとボールペン。
様々な状況を共に乗り越えてきたせいで随分古く見える。
二つの道具とほぼ同じ時期に手にした石があった。今日の空よりも柔らかい色をしていて、
強く握れば潰れてしまいそうだ。印象と同じく、込められた力も脆い。
未来のシナリオが書けても当たらない確率があるなら頼りきれない。
けれど他人には無差別に頼りにされて、外れれば文句が待っている。
黒の上部にしてもそうだ、過信する根拠がないにも関わらず。
しかもこのように使いやすい形にしておかないと、突如襲ってくる事態に対応できない。
吐き出したかった愚痴はため息で替えた。胸ポケットで眠る眼鏡を叩き起して装着する。
視力が悪いわけではないので世界は変わらないが、
大きなリュックサックを背負う男性の姿が遠くにあった。誰でも分かる特徴的な髪が風に揺れている。
「飲む?」
一本しかない缶コーヒーを差し出した片桐は、特別な感情を込めないまま顎をしゃくった。
小林も手を振るだけで返すが、重い腰に力を込めて立ち上がる。
片桐の仕事が終わったなら外にいる必要はない。
好きな舞台でも好まないテレビでもなく、雑誌の取材を受けていた最中だった。
写真を撮るために街へ出たのだが、片桐が変な注文ばかりするおかげで終了時間に差が出てしまったのだ。
中途半端な時間だったため出かけることも出来ず、結局は待ちぼうけになってしまった。
小林の都合を知らない片桐は上機嫌でコーヒーを飲み下している。

164 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:40:58
片桐は小林が黒に属していることを知らない。どういうわけか疑われさえしなかった。
似た状態のコンビは片方が信じきっているせいで成り立っているが、
この二人の場合はこじれてさえいなかったのだ。騙す側の小林にとっては有難い状況である。
三十過ぎた大人が並んで歩く姿はどこか滑稽だった。見上げるほどの高身長を持つ小林と、
有無を言わせぬ風貌の片桐の存在感は周りを圧倒させるには十分である。
広く感じる歩道を歩く途中、空き缶を捨てた片桐が少し眉を上げた。
撮影場所から数分歩いた先の建物。先程とは違う取材を待つため、わざわざ用意された楽屋もある。
こちらはお笑い関係の仕事なので知った姿を発見できた。
特に面識があるわけではなく会釈だけで対応する。
説明された場所に向かうが楽屋が見当たらない。記憶にある部屋番号と一致しているのに、
名前を記す紙片に違うコンビ名が表記されているのだ。首を傾げる出来事はすぐに解決、
相手側のミスで楽屋が一つ足りなくなってしまったらしい。
平謝りする女性に頭を上げさせてから散歩に向かおうとしたが、数分経って違う場所に案内された。
少し歩くが遠すぎることはない、人通りが少ない廊下に数人の足音が響く。
広い部屋には白い雰囲気が漂っていた。本来なら何人かまとまって使う場所なのだろう、
二人では広すぎて逆に落ち着けない。とりあえず鞄は床に置いて、手荷物だけはテーブルに乗せた。
傍らにあるパイプ椅子に深く凭れる。
小林より大きなリュックサックを下ろした片桐も大げさな息をついて寛いでいた。
片桐も片桐で大変なのだ。与えられた力を使うために粘土を持ち歩かねばならない。
しかしあまり苦には思っていないのか楽しそうに粘土をこね始めた。辺りに微妙な臭いが充満する。
「賢太郎」
お互いの時間に入り込む前だった。少し真面目な声色の片桐が切り出す。
小林は動じるわけでもなく眼鏡を上げた。

165 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:41:45
「何?」
「多分、もうちょっとで来る」
石を持った芸人が。何度も繰り返された会話なので省略されている。小林はシャープペンを手にとり、
片桐は必要な物を作り出した。これから嘘吐きの演技が始まるのだ。
片桐の予告通りだった。数分も経たない内にドアを叩く音がする。
既に形を作り終えている片桐が頷いていることを確認してから、出来るだけ低い声を出した。
「何ですか?」
「小林さんに用があるんですけど」
この時点では敵意を見抜けない。
恐らく何も知らないような素振りで入ってくるのだろう。ならばこちらも同じことをすればいい。
「どうぞ」
丁寧に対応すれば若い雰囲気をまとった青年が一人。あいにく名前を知らない相手だったが、
目の奥にある感情は小林を睨んでいる。
穏やかに済ませることは出来そうもない、相手にばれないよう小さくため息をついた。
男は部屋の状況を見渡し片桐と目を合わせる。擬態させた粘土は足元に隠しているようだった。
小林同様呆気に取られた演技をする片桐に安心した男が見上げてくる。突然の攻撃を予告していた、
反応を待たずに体を数歩引けば、腰の数センチ右を通る黒い線を確認。
長く続く線はまやかしではなく実在しているらしい。
男の指先を始点に、一本の線が凄まじい早さで直進し、壁に跳ね返って小林の背中に向かう。
すんでの所で交わすが別のことをしている暇はない。
線が入り乱れているせいで避けることしか出来なくなってしまったのだ。
線を投げる能力? 違う、指先から出ているなら操れるはずだ。
投げた球よりも早く伸び続ける線に触れたらどうなる? 切れるだけならまだしも爆発したら最悪。
シャープペンの芯くらいの細さだから見失う可能性もある。

166 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:42:34
手にしたノートの存在を思い出す。小林に向かう線の先端をぎりぎりまで見極め、
目に刺さるより早くノートに替えて逃げた。貫通した線は変わらずに直進を続ける。
ある程度の強度はあるが副作用はない。
「仁、眼鏡外すなよ」
よく分からない状況にあたふたする片桐に忠告した。
線を避けてはいるものの、頭上には疑問が浮かんでいる。
「目に刺さったら失明」
絶対にあってはならないことだった。針金が目に刺さるのと同じだ、どうなるかは安易に予想できる。
状況を想像して身震いしたが能力は理解できた。
線が刺さったままのノートは見捨てて近くにあったプリントを手にする。
動けないくらいに張り巡らされた線を踏みつければ先端の動きが止まった。
同時に片桐が線の合間を掻い潜って男の近くに向かう。
擬態化されたそれは脅すための道具だ。
普通に造ればいいのに、どこかのプラモデルのようなデザインをした拳銃は一応現実的な存在感があった。
銃口を向けられた男が目を見開く。
ばれるのは時間の問題だし、新しい線が投げられてしまえば状況は悪化する。
地面に落下した線が復活しないうちに小林の能力を使う必要があった。先程手にした紙を机上に叩き付けて、
シナリオの世界だけに集中する。思考以外の全神経を集中させているせいで詳しい確認は出来ないが、
男はまだ動けていないようだった。
男という呼び方は止めようか、シナリオらしく男Aとしよう。対して変わらない。
数分経って出来上がったシナリオに目を通す。何故か争いは喜劇に変化していた。
主人公は小林、片桐。敵役は男A。騙し合いはほどほどに。
銃を向けられた男Aは小さな疑問を持つ。銃があるのに表立った脅しを始めないのは何故だ? 

167 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:43:11
そして騙されていることに気づく。
ここで小林が馬鹿にした笑みを浮かべれば、男Aが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「右に傾け」
指示された片桐は右に、脚本家の小林は左に体を動かす。
開いて閉じる二人の中央を綺麗に通った線は壁を反射して男Aに向かっていった。
慌てて避けているが酷く滑稽である。
「次は?」
「下へ参ります」
エレベーターガールのように囁いてからしゃがみ込めば、線が頭上を通過して飛んでいった。
もちろん小林の声色には馬鹿にした響きを混ぜてある。むきになった男Aは途中で線を切り、
離れた線は無差別に部屋中を飛び回った。
もちろん予想済みだったので驚かないし、あと数本線が飛ぶことも知っている。
「ここで仁の髪を貫通」
「ぎりぎりセーフ?」
もさもさした髪の横側を通りすぎる。いっそ線を髪に混ぜてしまえばいいのに。
くだらないことを考える頭を振ったが、片桐が楽しみ始めているようだったので開き直った。
どうせなら楽しんでやる。
「そこで兎跳び」
「側転」
「見返り美人図のように」
「開脚前転からのY字開脚」
「出来ねえよ!」
律義に行動していた片桐も気づいた。小林は楽しんでいるだけで必要なことを言っていない。
そして開脚前転しかけている自身、遠い目をして空を仰いでいた。

168 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:43:51
線は増え続けているが小林達は疲れていない。真面目に攻撃し続ける男Aだけが息を切らしていた。
いつのまにやら体力を消耗していたようだ。笑いを堪えるのに必死だった小林が漸く悟る。
そして手にしていた紙を確認すると、どれだけ芸術的に線を避けられるか挑戦している片桐に指示を出した。
「細いワイヤー作って」
「え?」
「前ライブで使ったみたいなやつ」
これだけで片桐は理解する。綺麗に線を避けながら粘土を細くしていった。淡い光が辺りを包み、
端に釘を仕込んだワイヤーが擬態される。左右の壁に繋げてから線を避ける作業に戻った。
「結局何だったの?」
「すぐ分かる」
向かってくる線を避けているうちに行く場所がなくなる。
戯ける余裕がなくなってきた、片桐の顔に余裕が無くなる頃、二人に向かって短い直線が飛んでくる。
同じく真面目な顔をしていた小林が声を張り上げた。
「斜めになって戻る!」
いつかコントでやったのだ。見えないワイヤーで釣り下げられた体を傾けて、何事も無かったように戻す。
粘土で作ったワイヤーはそのための布線、なの、だが。
「強度は粘土のままなんだよね」
あまり使わない口調で嘯く。作った片桐自身それを忘れていたらしく、思いきり体を後ろに倒していた。
もちろん粘土は耐えきれずに切れ、目を見開いた片桐は大げさな音と共に転ぶ。
しかし倒れて一番高くなった鼻の先を線が通りすぎていった。
ワイヤーが無ければ思いきり倒れ込めなかっただろう。ここは計算だ、痛手も少ない。
頭は髪でカバーされ、て、いればいいなあ。適当な願望を抱きながら次の行動に出る。
そろそろ線が少なくなるはずだ。

169 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:44:37
片桐の鞄に入っているはずの作品を擬態化して突進させればいい。何を擬態するかは任せる。
片桐に旨を告げれば嬉しそうに笑った。予定通りに少なくなった線の間を抜けて、
リュックサックの中身を探る。ある意味分かりきっていた選択だ、どうせ決め台詞も言うんだろう。
「片桐、行きまーす!」
分かる人には分かる台詞から始まって、手にした粘土を擬態した。白い機械のような容貌をしたそれは、
マニアが見ればオリジナルであることを理解できるはずだ。
「ガンダム!」
右腕を力強く引きながらそれを突進させた。付属されている機能で空を飛び、
いかにもな風体で男Aに向かっていく。流石に怯んだ男Aが体を引いた。
当然だろう。かつてテレビの中にいたそれの戦闘時の強さを知っているはずだから。
小さいままとはいえ何かあると、真面目に捉えて普通なのだ。
青白い光を纏ったそれは、どこか冷たい雰囲気も浮かばせ、目を光らせた後に。壁に衝突して潰れた。
部屋に奇妙な間が充満する。
もちろん小林は予期していたが、それでも笑いを抑えるのに必死になってしまった。
脱力した相手の指から伸びる線が下向いて消える。無造作に残った線が数本飛び交う以外は動きが無い。
作られた傑作を潰した悲しみにくれて、片桐が眉を寄せるだけだ。
「ガンダム弱え……」
心底哀しそうな呟きのせいでとうとう吹き出してしまった。
怒る片桐に形だけの謝罪をしてからシナリオの確認をする。
小林にしか読めない文章が場面の急変を表していた。顔を引き締めて片桐に忠告。
「ここからは真剣に」
片桐も不機嫌な表情を固め、怒りを露にする相手を見た。馬鹿にされたことで憤慨している。
シナリオはこうだ。男A、激怒して暴走。

170 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:45:25
男Aは線に頼らず、小林の方へ突進してきた。出来るだけ間を詰めてから右手を振りかぶり、
避けられない距離で線を放つ。予想していなければ体を貫通していたかもしれない、すんでの所で右に跳び、
一拍取らない内に逆に飛んだ。二本目の線が足元を走る。
右人指し指から出ている線は見慣れているものだ。逆の手の人指し指から二本目の線が放出されていた。
しかしそれが能力の限界なのだろう、男Aの額に脂汗が滲んでいる。
標的は小林のみだった。必要以上に狙われれば避けるのは難しい。逆の道を取る、
辺りを見渡して発見したビデオテープを手にとり、線が体に当たる前に弾き返した。
線は角度を変えて見当外れの方向に飛ぶ。一部始終を見ていた片桐も同じことを始めた。
能力を阻止されて戸惑っているらしい、男Aが目を見開く。少しの動揺を見逃さず、
手にしたビデオを男に投げつけた。避けきれなかった相手の腹部に当たったが対したダメージにはならない。
どうすれば攻撃できるか考える。手元の紙に答えはあるが、出来るだけ自分で考えたかった。
近くに鋭利な刃物は無い、投げて丁度良いダメージになりそうなものも無い、
ガラスを割って突き刺すわけにはいかないし、相手の線を拾って武器にしても弱すぎる。
生身で殴るのは危険極まりない。思考にふけりそうになったがすぐに我を取り戻した。
目元に向かってきた線が眼鏡で弾かれて方向を変えたからだ。
片桐の能力を使うにしても粘土では対抗できまい。一応能力も擬態出来るから、そこから考えていけば。
目に入った重たそうなシャープペン、片桐の粘土、思いついた。
「仁!」
ペン立てに立てられたシャープペンを片桐に投げる。指示せずとも悟った片桐は、
近くにある粘土を手の感覚だけで形作った。手元の紙で答え合わせをする小林が口元だけで笑みを浮かべる。
ずれる眼鏡を掛け直しながら、作られた粘土の作品を見た。
シナリオ通りに進めるため、紙に書かれた記号の羅列を朗読し始める。

171 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:46:18
「小林、片桐、男Aの線を数秒避け続ける。小林、二本伸びている線のうち一本を踏みつけ、」
革靴を床に叩き付ければ乾いた音が広がる。
「動きを止める。男A、止められた線を見限り、新しい線を出す」
男Aからしてみれば無意識で命令にしたがっているような感覚だ。
操作されているのではないかという恐怖は、攻撃を和らげるためには最適である。
新しく作られた線は大きく標的をずれ、しかも動きが遅くなっていた。
「小林、」
ここを言ったら相手に悟られてしまう。途中で口を閉ざして作業に入る。
気を逸らさせるため、書かれていない描写を口にした。
「片桐、男Aに向かって悪態をつく」
「カモン妖怪針人間!」
片桐が相手を指差して笑った。男A、怒りに任せて片桐を攻撃。避けることを信じた小林は別行動を取った。
足元に留めたままにしておいた線を手にとり、片方を机の柱、もう片方を丸出しの下水管にくくりつける。
背中を向ける男Aごしに、片桐へ合図を送った。シナリオ朗読を再開する。
「片桐、見境無く物を投げる」
鉛筆、消しゴム、紙コップ、しまいにはパイプ椅子を投げつけている。
大きな音が喚いても人が来ないのは、ここが他の楽屋から外れているせいだ。
相手を追い返すためには好都合、部屋がせまいほど相手の能力はやっかいだが、
線の早さに慣れてしまえば問題はない。頬の右側、右耳の下を線が通りすぎても動じなくなっていた。
飛んでくる物を避けるため、男が体を引き続ける。手が上向いたせいで線も天井に当たった。
床と天井を往復させてしまえば、こちらに向かってくる危険はない。

172 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:46:58
「男A、後ろに数歩引くが」
左右に繋げた線が罠に変わる。アキレス腱を引っかけた男が大きくバランスを崩した。
しかしこのままでは倒れない、追い打ちは既に準備してある。
「片桐が作品を発射する」
ずっと手にしていた作品は炎のようなものを上げて突進した。
奇抜な色をしたミサイル、線の合間を掻い潜って男Aの元に向かう。
男Aの顔に安堵が浮かんだ。粘土を当てられても大丈夫だと思っているらしい。
余裕は避けるための動作に遅れを作る。
「男A、あまりの衝撃に、」
ミサイルがみぞおちに入った。大きく咳き込んだ男Aが、信じられない様子で胸元を見た。
指から伸びる線が消えて、自動操作の線だけになる。
めり込んだ粘土は胸元に付着し、力に流された男Aは、受け身を取ることも出来ずに、
「倒れる」
鈍い音が部屋に響き渡った。仰向けになった男Aは、手を左右に広げたまま起き上がることは無い。
能力の使いすぎで精神の方にがたが来ているのだ。辺りに飛び回る線も段々色が薄くなり、
落ちている線と共に消えていった。
ミサイルは粘土だけで作られていたわけではなかった。
潰れる粘土の透き間から食み出ているのは重くて太いシャープペン。
雪合戦の雪玉に石を入れるのと同じように、威力を倍増するために仕込ませた。
擬態すればミサイルのスピードを出せるから、ボクサーのパンチ程度の力は生まれていただろう。
能力が無くとも戦いに参加は出来るのだ。
自負していた小林は、手にしたシナリオを強く握りしめてからため息をついた。
小林自身どのような感情を込めていたのか分からなかった。

173 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:48:00
かがみ込んだ片桐は、胸元にある粘土を回収してから、男Aの顔を覗き込む。
どこか生気が抜けている、立ったまま見下ろす小林でも分かるほど衰弱しているようだった。
前兆が無いまま戦いが始まってしまったため、男Aが何を意味して来たのかが分からない。
誘導尋問で口を割らせるか、綺麗とはいえない頬の肌を掻いてから目を横に逸らす。
シナリオを確認すれば展開の変化が記されていた。
空気が籠もっていて気持ち悪い。粘土の臭いで満たされてしまったらしい。
換気するため窓を探したが開けられない仕様になっている。せめてドアでも開けようか。
倒れたままの男Aを遠目で見やってから、重くて固いドアを開けた。
「賢太郎!」
危機迫った片桐の声が響く、振り返ればスピードを落とした線が顔に向かってきていた。
男Aが右手を上げ、首だけでこちらを伺いながら目を光らせている。
「大丈夫」
小林は、避けるわけでもなく呟いた。
「来客がある」
開いたドアの向こう側から水が飛んでくる。
長く続いた水鉄砲が、黒い線が顔に当たる寸前に方向を変えさせた。
顔や服に水が飛び散り、眼鏡に水滴が付着して視界が滲む。
拭いたレンズの先にいるのは、男にしては有り得ないほど細い体を持つ新たな登場人物。
白い肌に浮かぶ目の下のくまが異様な雰囲気を作っていた。同じ番組に出演しているが、
コーナーが違うので久しぶりに顔を合わせる。
無表情のまま部屋に入る菊地は、片桐と目を合わせて会釈してから小林の顔を見上げた。
小林は少しふざけたように頭を下げる。

174 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:49:02
「ありがとう」
「いえ、服濡らしちゃいましたし」
決められたような会話を交わしてから、外に出るように促された。気を失っている男Aの横、
不思議そうに眉を寄せていた片桐が、思いついた顔に変わる。
「ああ、黒側の話か」
急に指された図星に息を飲むのは小林だ。目は見開き、鼓動が脈打つのを感じながら口を開く。
「なんで」
「一緒に仕事してれば分かるよ」
事実を知っている片桐は怒りも失望も浮かべずに、散乱しすぎた髪を後ろで結んでいた。
何も言えない小林の顔を眺め、なんてことない表情で軽く笑う。
「賢太郎のことだから、ちゃんと考えがあるんだろ? なら別にいいよ」
急に許されても戸惑うだけだ。多数の芸人を手にかけてきた小林にとって、
むやみに信じられるのは心地好いことではなかった。しかし拒否するわけにもいかない。
微妙なジレンマに潰されそうになる。
「……なら、ここで話してもいいですね」
第三者である菊地は、どこか冷たい態度で目を伏せた。片桐は片桐で粘土の世界に浸っている。
一人だけ取り残された小林は、手にしていた紙切れを握りつぶした。
「明後日の夜、上部で話し合いがあるそうです。
 小林さんが出席しないと話が進まないんで、絶対に来るようにと」
簡潔に用件を告げた後、一番真剣な声色で訪ねてくる。
「シナリオはどうですか?」
言われてから存在を探した。床に落ちているノートには細い穴が空いている。
数枚めくれば専用のページがあった。菊地についてではなく、相方の山田が危険を回避するためのシナリオだ。

175 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:50:15
お互いに似た環境にあったため、このように協力するようになった。
小林がシナリオを提供する変わりに、菊地はこちらが危険な時に助ける。
お互いを支えるには打ってつけの交換である。
条件を破ったら、相方に真実をばらすというリスクを伴う事で釣り合っていたが、
今ではそれも崩れてしまった。
「特に変わったことは無い」
「本当に?」
「強いていうなら、君を助けに向かう可能性がある」
菊地の顔が歪んだ。詳しい話は知らないが、いつか有名なコンビと争っていたとき、
山田が途中で入ってきてしまったことがあったらしい。小林のシナリオには書かれていなかったので、
本当に突発的な行動だったのだろう。
今回に限らずこれからもずっとその可能性がある、そういった意味が込められていた。
真意を悟った菊地が再度目を伏せる。戯れで手元に水を出現させてから、小林のことを睨んだ。
裏切られた子供が見せるような鋭い目付きだった。
相方に許された小林が裏切り者として対処されてしまったのだろうか。
これから菊地がどんな行動に出るか分からない。こちら側のシナリオを書き直し、
菊地自体のシナリオを手にする必要がある。能力の多用による疲れを予想してため息をついた。
闇を背負う背中を見送りながら、心の中だけで謝罪する。
山田にとっての最高のシナリオはこうだったからだ。菊地が黒を抜ければ争いは極端に少なくなる。
そして、菊地が黒に残り続けた後の展開は、明るいものではなかった。
小林が真実を告げない理由は一つ。こちらの安全を守ってもらうため。勝手すぎるが仕方がない。
ある意味で全てを背負ってしまう小林の能力。責任の重さにため息をついてから、
必要なくなった伊達眼鏡を外す。倒れ込んだまま動かない男Aのポケットを弄り、
黒くて荒々しい石を取り出した。黒側の人間が発するような暗い色は放たれていない。

176 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:51:35
どこかで逆恨みを買ったことで襲われたのか。ノートを見やれば、確かにハプニングの可能性が記されていた。
対応しきれなかった失敗は忘れ、左手の石に力を送る。黒いが透明感のある光が瞬く。
右手親指以外から一気に線が放出された。四本は各々違う方向に直進し、壁に跳ね返って止まる。
人によって使える線の数が変わるらしい。男Aには合っていなかったのだろう。
線を消してから、粘土を捏ねている背中に石を渡す。手にした片桐は一頻り石を観察してから、
よく分からない力み声を出して両手を開いた。親指以外から、つまりは左右四本ずつの計八本が放出される。
何故か悔しくなった小林がひそかに口を尖らせた。
「それ持ってれば?」
「何で?」
「ちょっとは戦いやすくなるだろ」
「やだよ、使いにくいし」
提案はすぐに拒否される。保持を望んでいた小林が、黒い石の利点を探した。返してもらってから線を作り、
逆の手で掴んでから加工していく。
「狭い部屋なら相手が避けきれないまま終わるだろうし」
作り上げたのは平面の正方形だ。黒い枠を軽く持ち、遠くの壁に向かって投げる。
回転しながら進む正方形は、一瞬にして壁に突き刺さった。
「こういう使い方もある」
男Aが気づいていなくて良かった。実際にやられていたら勝てていたか分からない。
利点を並べられた片桐は、それでも首を横に振る。
理由を問えば、いつもの自分中心的な笑みを浮かべるだけだ。微妙な沈黙が流れたが、すぐに埋められた。
「俺はこれだけでいいよ」
翳した粘土は先程潰れてしまったガンダムの修復形。心なしかアレンジされているようにも見える。

177 :新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/03/08 15:52:27
呆れた小林も苦笑し、黒いセーターのハイネックラインを掴んだ。戯れで伸ばしてから石をポケットに入れる。
黒上部の更に上にいる彼に相談するべきだ。しかるべき持ち主を探してくれるだろう。
何となくシナリオを見て、次にやってくる災難に頭を抱えた。この黒い石には、もう少し活躍して貰う形になる。
ため息をついた。小林の表情で悟った片桐も、少しうんざりした表情に変わった。
開けっぱなしのドアの向こう側、気絶したままの相方を救う為に走ってくる存在を確認する。
身の安全を確保するためだ、シナリオでは男Bとの対決も予想されているから。
直線上にある男Bと向かい合う。
シナリオに縛られる生活は暫く続きそうだ。殆どの運命を握り、それでも自分達中心で事を考えている。
これからはどうなるのだろうか、遠すぎる未来まではシナリオ化出来ないので分からない。
とにかくこちらの安全が確保出来ればいい。出来るなら、いつもここからの二人も。
眼鏡を掛け直す。石は左手で握る。体は横に、顔だけドアの向こう側に合わせて。
右手をゆっくりと翳し、走る新たな登場人物に向かって四本の線を投げた。

End.

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